独、大連立で歳出圧力 政策に左派色
低賃金規制や年金前倒し 安定優先、改革意欲は後退
【ベルリン=赤川省吾】ドイツの保守系与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と最大野党の社会民主党(SPD)は16日、連立合意書に正式調印した。大連立政権の公約には低賃金労働の規制や社会保障制度の拡充など国内向けの歳出メニューが並ぶ一方、国内改革や欧州周辺国への貢献の議論は少ない。欧州経済で「一人勝ち」のドイツで内向きの姿勢がさらに強まる。
メルケル首相(CDU党首)、ゼーホーファーCSU党首、それにSPDのガブリエル党首の3人は16日、185ページに及ぶ分厚い連立合意書に署名。副首相兼経済相となるガブリエル氏は「実現すればドイツ国民の生活が改善する」と強調した。9月に行われた連邦議会(下院)選挙から3カ月近くに及んだ連立協議がまとまったことで、第3次メルケル政権は17日に発足する予定だ。
時給8.5ユーロ(1200円)の法定最低賃金を2015~17年で段階的に導入。条件を満たせば原則65歳の年金支給開始年齢の63歳への前倒しを認め、道路を整備し、金融市場を規制する――。連立合意書には左派色がにじむ。
SPDが主導した1998~05年のシュレーダー前政権は社会保障制度の縮小など構造改革を断行。ドイツ経済は再生したが、支持層が離れて党勢が衰えた。その苦い経験から今回の連立協議では当初から痛みを伴う改革には否定的だった。
保守陣営もSPDの要求を黙認した。同じ大連立だった05~09年の第1次メルケル政権では付加価値税率上げに果敢に取り組んだが、経済が好調な今では国民の多くが現状維持を望む。逆に経済再生の裏側で低賃金労働が増えたなどの不満が広がり、年金拡充案を盛り込んだのは保守側だ。
交渉に当たったCDU議員の一人は「格差是正に取り組むべきだとの意見はこちらにもあった」と明かす。16日にはメルケル首相も「(弱者を救う)セーフティーネットは重要だ」と語った。
この結果、政権公約には効果が玉石混交の小規模なばらまきが随所に盛り込まれる一方で、税収増を図る増税策は見送られた。「財源を考えずに有権者に贈り物をするひどい内容」とケルン経済研究所は批判する。
ドイツ経済は好調を維持する。ドイツ連邦銀行の12月月報によると、14年の実質成長率は1.7%で、失業率も5%台前半とユーロ圏平均の半分以下にとどまるという。
債務危機のなかでも底堅い景気に支えられて税収は拡大、独財務省は18年まで年3%で税収が増え続けると試算する。改革や増税に取り組む機運がないのも当然ではあり、上下両院の安定多数を手にした大連立政権は当面、大きな政策転換には動かないとみられる。
ドイツの財政支出が増えれば欧州景気に恩恵が及ぶ可能性もある。ただ国内で慎重論が多い南欧支援、欧州統合の加速といった課題に、メルケル政権は従来通りの消極姿勢を維持する見込みだ。