基板や化学式のピアス…文系女子も「リケジョ」の装い
「理系アクセサリー」、機能美で人気
まずは「工学系」。「一目見て気に入った。人工的なきれいさが何とも言えない。基板をよーく見ていると小さい都市のように思えてくるんです」。大阪府豊中市在住の南浦真由子さん(31)が愛用するのは、電子部品の基板を樹脂でコーティングしたピアス(6600円)だ。
もともと幼いころからテレビの裏側に回って配線を見たり、デジタル機器を分解したりするのが好きだったという南浦さん。卒業したのは心理学部だが「いまだにテレビでエンジニアの仕事を見ると、工学分野に進むのもよかったかなと、大人になって機械好きなことに気づいた」と話す。
このピアスを手がけたのはデザイナーの中元奈央さん。昨年6月に自身のブランド「サイデザイン」(大阪市)を立ち上げ、インターネットを中心に販売を始めた。中元さんも経営学部出身と文系。「機能は分からないけれど、メカの細部や内部にデザインとして美しさを感じる」
基板のピアスは、中元さんが廃棄物の解体業者などに出向いて手に入れた部品が材料だ。発売当初は男性の購入が多かったが「『リケジョ』や(技術系に詳しい)『ギーク女子』といった言葉が広まるにつれ、20~30代の女性の購入が増えている」という。
文系女子が手を伸ばす一方で、リケジョ自身も身につける。
注目は「化学系」。薬学などの研究者からのオーダーが多いというのが、浜田佳苗さんの手がけるブランド「アンクラールス」(奈良県生駒市)だ。
人気は手作り品の売買サイト「iichi」で販売している化学構造式をモチーフにしたシルバーの「化学式ピアス」(1500円~)。昨年9月に販売を開始し、今では1日に1人以上のペースで注文が入る。
デザイナーの浜田さんは「理系科目は好きだったけれど、試験となるとできなかったくち」だが、ジュエリーの専門学校に通っていたときに、高校時代に好きで眺めていた化学の資料集をもとに制作を始めた。
硝酸や塩酸といった単純な化学式から、解熱剤などに用いられるアセトアミノフェン、アミノ酸のひとつのトリプトファンといった複雑な構造式まで扱い、オーダーも受ける。理系の学生や理系出身者では、「左耳にトルエン、右耳に硝酸で、反応させると爆薬といった組み合わせを楽しんでいる」(浜田さん)つわものも多いそうだ。
「生物系」では、遺伝子を構成するDNAモチーフが人気を集める。MoMAデザインストア(東京・渋谷)では、DNAのらせん構造をモチーフにしたネックレス(5400円)やブレスレット(3900円)など「DNAシリーズ」が売れている。米国のデザイナーによるもので「人は生まれもってデザインを身につけている」という発想から生まれた。「パーティーなどで話のきっかけになると、20~50代の幅広い年代の女性が購入していく」(マーケティング担当の望月香菜さん)という。
ファッションジャーナリストの宮田理江さんは理系モチーフの流行について「iPodやiPadなどのデジタルデバイスがファッションの一部として捉えられるようになった延長線上にあるのではないか」とみる。「デザインとして無駄のない機能美はもちろん、シャープに見え、理系ならではの知的さを演出できる」とも。
リケジョという言葉を耳にする機会が増え、個性のひとつとして、理系であることや理系好きをアピールすることもおしゃれのひとつになっている。"ぱっと見"リケジョはまだ増えそうだ。
(井土聡子)
[日経MJ2013年8月11日付]
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