時速80キロのマドンナ 競艇、陸上もエンジン全開
コスプレやグラビア人気

ボートレース多摩川(東京都府中市)で、24日開催された女子リーグの開会式。選手紹介でアニメソングと共に市村沙樹選手が登壇、集まった約500人のファンの注目を一身に集めた。コスプレが趣味の市村選手はアニメキャラクターに扮(ふん)した衣装に銀髪のかつら。市村選手は「みなさん多摩川に貢いでね~」と挨拶し、ファンの笑いを誘った。

市村選手「みなさん多摩川に貢いでね~」
開会式後も人気選手らに花束やプレゼントを渡すファンが引きも切らない。この日は平日にもかかわらず、前回を上回る約3500人が来場するにぎわいを見せた。競艇の宣伝活動などを手掛けるボートレース振興会(東京・港)の広瀬秀貴常務理事は「こんなに人気が出るとは思わなかった」と話す。
女子レースの開催日1日あたりの平均売上高は、12年度は前年度比25%増の3億3300万円。09年度にレース全体の平均を抜いた後、その差は年々拡大し1.6倍まで開いた。高い人気を背景に賞金女王決定戦を昨年12月に新設し、全6日間の売上高は予想を20億円上回る90億円と好調だ。
女子選手は現在187人と全体の約1割を占める。年齢層は20~50代と幅広い。経歴は多彩で、白百合女子大学出身で「お嬢様レーサー」として5月デビューした富樫麗加選手や、モデルから転身した芦村幸香選手をはじめ美女も多い。

選手が乗りこなすボートは最高時速は80キロメートルで、体感速度は130キロメートルという。水しぶきが視界を遮るなか、ハンドルとアクセルを操り、巧みな体重移動でドリフトさせながらコーナーを曲がる。波のうねりでボートに体がたたき付けられるが、ブレーキもシートベルトもない。転覆など事故の危険もつきまとう。
「お嬢様レーサー」として5月デビューした富樫選手
相模原市の会社員、杉本健太郎さん(36)は「一見普通の女の子があんなに激しいレースを戦うなんて」と女子レースの魅力を語る。昨年10月にボートレース振興会が実施した調査でも女子選手の魅力は「ビジュアル」が32.8%と最も多い。
開催前日には、競艇場の入り口でファンが選手を待つ「入り待ち」ができるほど。女子リーグ前日のボートレース多摩川では、約60人のファンが集まった。
競艇は1950年代から女性に門戸を開いていた。当初は女子選手は少なかったものの、80年代後半に育成方法が確立されると活躍する選手が増え始めた。体重制限を除いて男女が同じ条件で競い、体重の軽い女子選手が直線で男子選手を追い抜くことも多く、優勝も珍しくない。
売上高では競馬が突出する公営ギャンブル。かつて競艇は売上高トップだったこともあるが、場外の舟券売り場の整備や新たなファンの開拓が遅れ、後じんを拝すことに。それが、女子選手を前面に打ち出してからは上昇基調が続く。
女子選手の活躍で競艇に対する印象も変わってきた。イメージ調査で「怖い」との回答は10年の15.8%から12年は11.5%に低下。「ギャンブル性が強い」という回答も12年は30.9%と10年比で7.3ポイント下がった。
ファンの増加を背景に女子選手専門の雑誌も誕生。日本レジャーチャンネル(東京・港)が昨年11月に発売した「ボートガール」は、グラビアと対談が評価され、予想を約2割上回る売れ行きで「第2号の発行も検討中」(営業部)だ。
人気のない競技が女子選手を前面に押し出すことで活路を見いだすのは、よくある手法かもしれない。ただ、様々な思惑を越えて、戦績を重ねて有力選手に育っていく姿からは、美しさと強さが熱く伝わってくる。
(倉本吾郎)
[日経MJ2013年5月29日付]
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