携帯の人口カバー率改訂 「99%でも圏外」是正へ
圏内・圏外の判定精密に 鍵握る「メッシュ」
携帯電話サービスの利用可能なエリアの広さを示す指標「人口カバー率」の算出方式が変更される。総務省が新たな公式基準を導入することを決め、7月以降に新規割り当て予定の周波数帯に適用する。全国を約500メートル四方のマス目(メッシュ)に区切り、個々のメッシュごとに圏内か圏外かを判定する。従来方式より実際の電波の状態に近い人口カバー率を算出できるのが利点だ。
携帯電話サービスをめぐっては、スマートフォン(スマホ)への買い替え需要に支えられ通信各社の業績は堅調に推移している。一方で難解な料金体系、解約時の高額請求、通信障害などに加え、競争激化を背景とした誇大広告に不信感を抱く消費者も少なくない。人口カバー率をめぐっても、NTTドコモやKDDI(au)、ソフトバンクモバイルなど通信各社は、広告などで「人口カバー率99%」など通信可能エリアの広さをアピールしている。しかし実際には、各市町村の中心部しかカバーしておらず、消費者の自宅などで通話・通信できない場合も多い。各社の公称値と実態とのズレが、消費者に疑念を抱かせる一因となっていた。
今回総務省が採用した新ルールを通信各社が採用し、実態に近い人口カバー率を算出・公表することで、消費者は従来より正確に、つながるエリアの広さを確認可能になる。各社の基準も統一され、比較しやすくなりそうだ。
全国を500メートル四方に区切る
総務省は人口カバー率を、携帯電話用の電波を通信各社に割り当てる際の審査や、参入後のエリア拡充状況の検証などに利用している。新たな電波を割り当てる場合、そのつど人口カバー率の算出方法を公表し、割り当てを希望する通信各社に人口カバー率の拡充計画の提出を求めている。これまで算出方法はほとんど改訂されてこなかったが、7月以降に割り当て予定の電波では、従来の算出方法を「メッシュ方式」に改める。
今回のメッシュ方式では、全国を約500メートル四方に区切る。ただし地球が球体であることから、厳密には個々のメッシュの大きさは微妙に異なる。例えば札幌(北海道庁付近)では幅509.1×高さ462.9メートル、那覇(沖縄県庁付近)では幅624.6×高さ461.6メートルとなる。
個々のメッシュが圏内か圏外かは、メッシュ内の圏内のエリアが面積比で50%超か否かで判断する。50%超ならそのメッシュ全域を「圏内」と見なし、メッシュ内の人口が携帯電話を利用可能と判定する。50%以下なら、全域が「圏外」として携帯電話を利用不能として集計する。電波がどのエリアまで届くかは、通信各社がコンピューターを使ったシミュレーションではじき出す。
実態にそぐわぬ従来方式
これまで総務省が採用していたのは主に「市町村事務所方式」と呼ばれる仕組みだ。各市町村(東京23区は各区)を1つのエリアとし、エリア内にある役所・役場や支所、出張所の全てに電波が届いていれば、その市町村の全域を「圏内」と見なしていた。1カ所でも圏外の庁舎があれば、全域を「圏外」と判定していた。
市町村事務所方式が使われてきたのは、電波が届くエリアを詳細に実測するには手間がかかるという事情があった。しかしこの裏をかき、広告で人口カバー率の数字を高く見せようと、各市町村の役所付近のみ最優先で基地局を整備するなど、いびつな状況が生じていた。一方でいわゆる「平成の大合併」で個々の市町村のエリアが大きくなったことで、実際には市町村の大半をカバーしていても、一部の庁舎をカバーできないばかりに市町村の全域が書類上「圏外」とみなされてしまう問題も起きていた。
メッシュ方式の採用により、圏内・圏外の判定エリア数は従来の1750カ所から約47万7000カ所へと大幅に細分化され、公表される人口カバー率が従来より実態に近くなる。通信各社の間で近年、通信エリアのシミュレーターの導入が進み、エリア判定の手間が軽減されたこともメッシュ方式の採用を後押しした。
実は総務省が2009~10年に過疎地への携帯電話網の整備について検討した際、圏内・圏外の判定にメッシュ方式を採用した経緯がある。当時は1キロメートル四方だったが、今回の本格導入に際しメッシュを500メートル四方とさらに細分化して、正確性を向上させることを決めた。すでに割り当てられた電波については引き続き市町村事務所方式を使い人口カバー率を検証するが、「今後の電波割り当てでは、原則としてメッシュ方式を採用する」(総務省移動通信課の田原康生課長)
「人口」の定義など課題も
一部の通信会社は先行して、既に商用サービスを提供中の電波についてメッシュ方式に近い算出方式を独自に採用し「実人口カバー率」として公表しているが、基準がばらばらだった。メッシュの形状や大きさ、メッシュ内の圏内・圏外の判定基準が統一されれば、異なる会社の数値を比較できるようになる。
大手通信事業者で唯一、実人口カバー率を採用していなかったNTTドコモも、総務省のメッシュ方式について「人口の定義など、いくつかあいまいな点がある」としながらも「指標が統一されるのは良いこと」と、大筋で歓迎の意を示している。総務省が新たな算出方式を打ち出したことで、通信各社の算出方式が総務省基準で一本化され定着しそうだ。
メッシュ方式にも懸念すべき点はある。同方式による人口カバー率の算出で使用する「人口」は国勢調査の「常住人口(夜間人口)」を基にしている。都心部など昼間人口が多い地域や駅・商業施設などでエリア整備を進めても、人口カバー率に反映されにくい。また、圏内・圏外の境界となる電波強度をどう設定するかは通信各社に任されており、各社による境界部の線引き基準がそろわない可能性もある。
KDDIは一部機種の高速通信エリアを実際より広く表示しているとして、消費者庁から再発防止の措置命令を出されたばかり。ソフトバンクモバイルも独自指標を基に「つながりやすさナンバーワンへ」とうたう広告を展開し、NTTドコモやKDDIから批判を受けている。誇大広告を取りやめようと通信業界は、通信速度や接続エリアといったサービス品質の指標について、広告での表示方法を定める自主的なガイドラインの策定に動き出した。実態に近い人口カバー率の公表と合わせて信頼回復に真摯に取り組まなければ、失った消費者の信頼を取り戻すのは難しい。
(電子報道部 金子寛人)