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若者こそ「マネジメント」を学んでほしい

米ドラッカー研究所、ワルツマン所長に聞く

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日本を立て直すにはイノベーションが必要だ。若者にこそ「マネジメント」を学んでほしい――。米経営学者の故ピーター・ドラッカー氏が長年、教壇に立ったクレアモント大学院大学(米カリフォルニア州)のドラッカー研究所所長、リック・ワルツマン氏はこう語る。同研究所は2013年夏、日本の高校生を対象にしたマネジメント研修を開催する。"内向き"とされる若者や、業績不振と苦闘する電機業界など、日本の経済社会には課題が山積している。日本を愛したドラッカー氏なら、どんな処方箋を示しただろう。ワルツマン氏に聞いた。

「イノベーション」はハイテクに限らない

――日本の強みだった電機産業などが不振に陥っています。韓国や中国、その他のアジア諸国の企業が急速に台頭するなか、日本企業には何が足りないのでしょうか。

「イノベーション(革新)が必要だ。現状を打破しようとする革新の精神が、組織の隅々まで浸透していなければならない。イノベーションは米アップルや韓国サムスン電子などのハイテク産業に限定される話ではない。ドラッカーが唱えた『イノベーション』とは、どんなにささいな変化でも、新たに効率を高めるものを指す」

「例えば、オフィスの事務員をみてみよう。その人が新しい形式の書類を作り、利用者の使い勝手を高めたなら、それこそがイノベーションといえる。企業の研究開発部門で働く技術者だけでなく、全職場の従業員が革新的な考え方を持つことが、組織や企業に革新をもたらす土壌となる」

――企業が停滞から脱するために、経営者や管理職がすべきことは。

「ドラッカーは『あらゆることは陳腐化する』といっている。これまでうまくいっていた仕事のやり方やヒットした商品・サービスが完全に廃れるのを待ってから、次のタネをまくのでは遅すぎる。技術革新は企業の成長を左右する。そのスピードは日々、速まっている。好調なときこそ次のタネを仕込むべきで、『今日の稼ぎ頭は、明日は通用しないかもしれない』と心得るべきだ」

「もう一つ、『顧客は誰か』というドラッカーの有名な問いを思い起こしてほしい。ソニーはかつて15歳の音楽大好き少年のために製品を開発していた。それが今や顧客を見失っている。技術者は、技術者自身のために開発しているように私には映る。会議室での議論をやめ、顧客の話を聞く必要がある」

グローバル化へ「縦割り」の悪弊を打破

――少子高齢化で日本の市場は縮み、企業は新天地を求めグローバル化を急いでいます。

「日本企業の立て直しには数多くのソリューション(解決策)が必要だ。まずは、縦割り主義を打破すべきだろう。世界で勝つためには、組織が外に開かれており、多様な価値観の人材を備えていることが必須の条件だ。特に若者は、『世の中は、繭のように温かく自分を守ってくれるわけではない』と一刻も早く気づくべきだ」

――大学のあり方も問われています。東京大学が秋入学への全面移行を検討していますが、人材育成機関である大学はどう自己改革すべきでしょうか。

「ドラッカー研究所はドラッカーの教えを世界に広めるという使命を達成するため、2013年夏に新たな試みを始める。ドラッカー・フォー・フューチャー・リーダーズ(DFL)という米国の高校生を対象に実施しているリーダー研修の日本版を開講する。日本の高校生をカリフォルニア州のクレアモント大学院大学に招き、キャンパスの寮に住みながら1週間、ドラッカーの思想を学ぶ。米国の企業や文化施設も訪れる」

日本の高校生に次世代リーダー研修

「ドラッカーは日本を愛していた。欧州出身の彼は、アジアや南米を旅し、世界中の人々に触れたが、日本には非常に強い親密さを感じていた。米国以外の学生を対象にDFLのプログラムを開発するとすれば、日本が最初となるのは当然の選択だろう」

「DFL日本版は、日本の次世代リーダーにとって重要なプログラムとなる。クレアモント大学院大学の学生がコミュニケーション(言葉、言語)の面で支援したり、米国の若者と交流したりすることも想定している。若者が海外経験を積む大切さは語り尽くせない」

――DFL日本版への参加資格や費用は。一般の家庭にとって、海外研修はいまだにハードルが高いと思います。

「事業計画は検討中なので詳細は未定だが、裕福なエリート層の子弟だけを対象にはしたくない。企業の後援や財団の奨学金など、様々な財政的支援を得た学生が交ざり合う形にしたい」

「検討段階だが、少なくとも日本のある企業がDFL日本版の構想を知り、スポンサーとして名乗り出てくれている。東日本大震災の被災地域から1~2人の高校生を派遣する手助けをしたいという申し出だ」

日本の教育産業と連携も

――教育産業など日本の企業と連携する考えは。

「日本市場に参入するにあたり、最適なパートナーを探している。具体的な実施規模は提携先が決めるだろうが、今までの話し合いからいえば、ひと夏に30~100人の派遣・受け入れになるだろう」

――日本の高校生にとって「マネジメント」は難しいテーマでは。ドラッカーから何を学べるのでしょうか。

「決して難しいとは思わない。ドラッカーの教えは単純ではないがシンプルだ。『顧客は誰か』など『ドラッカーの5つの質問』を核にマネジメントを教える。これをベースに企業経営者が事業計画を評価・立案するのとはレベルは異なるが、学生は自分なりに理解してくれるだろう」

「DFLはプロジェクトの立案、実施を通じて学ぶ研修だ。ロサンゼルスでは高校生が『街を安全にする』という目標を掲げ、清掃して街をきれいにすることで犯罪が減ると仮説を立てた。しかしプロジェクトは失敗に終わった。清掃の翌週には街の景観は元通りに戻ってしまったからだ」

「5つの質問」を座学で終わらせない

「だが次のステップがあった。生徒たちは『小さく始める』というドラッカーの教えに基づき、区域を限定して清掃した。それも失敗に終わった。最後に彼らは『顧客へ提供する価値は何か』と自らに問うた。答えは顧客の心の中にある。彼らは街に出て門戸をたたき、住民に『やってほしいことは何ですか。(1)清掃 (2)警官による巡回を増やす (3)街灯を増やす――の3択から選んでください』と頼んだ」

「結果は巡回と街灯の増加を住民は望んでいるというものだった。生徒たちは集計結果を地元警察署に持ち込み、説明した結果、その2つとも実現した。15~16歳の子どもがこのような過程をたどるのは、非常に洗練された学び方といえる」

――優れた理論を「座学」で終わらせないためには。

「顧客への質問を通じて、顧客が求めていることを知る手法は、まさにビジネスに通じる。生徒がドラッカーの『5つの質問』を使いこなせるようになれば、短期や長期のあらゆる目的の達成に応用できる。DFLの狙いは、それが米国の高校生であれ日本の高校生であれ、子どもたちに生涯使える道具を提供することだ」

「インディアナ州のある地域では11~12年、公立学校の8年生全員にあたる1400人の生徒がDFLを経験するという大規模な実験を実施した」

米国での実験が示したプログラムの効用

「外部の評価機関によると、70.8%の生徒がプログラムについて『マネジメントのスキルを学ぶのに効果的である』と回答した。さらに1カ月後の調査で、49%の生徒が『プログラムで学んだマネジメントのスキルを他の状況でも活用した』と答えた。子どもたちは自分の強みを探しだし、計画を見直しながら目標を達成する手法を学んだ。幸運は偶然もたらされるものではない、と分かったのだ」

――日本にドラッカー・センターをつくる計画の進捗度合いは。

「9カ月前の来日で構想を掲げ、どう具体化させるか検討を進めている。ドラッカー流にいえば『小さく始める』やり方でいく。日米の間は地理的な距離もあり、我々の事務的能力も限られるが、集中してやっていく。日立インフォメーションアカデミーと連携した企業人向けのドラッカー・カリキュラムの提供と、高校生向けのリーダー研修プログラムの2本柱で活動を進める」

《ドラッカーの5つの質問》
1)What is my mission? (われわれのミッションは何か)
2)Who is my customer? (われわれの顧客は誰か)
3)What does the customer value? (顧客にとっての価値は何か)
4)What are my results? (われわれの成果は何か)
5)What is my plan? (われわれの計画は何か)

(聞き手は高橋香織)

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