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「コンドラチェフの波」に乗り損ねたコダック、GMと異なる敗北の理由

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19日に米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)を申請した米映像機器メーカー、イーストマン・コダック。くしくも同じ日に、2年半前に同法を申請して経営破綻した米ゼネラル・モーターズ(GM)が、世界販売台数でトヨタ自動車を抜いて4年ぶりに世界トップに返り咲いた。破綻時には誰も予想しなかった短期間でのGM復活。一方のコダックはプリンター事業への転換で再生を目指すが、競争が激しいIT(情報技術)業界にあって復活への青写真は明確とは言い難い。

両社とも米国を代表する「名門」で、一時期には圧倒的なシェアを誇った業界の「盟主」でもあった。さらに「経営破綻」という共通項も加わったが、2社の失敗を分析すると決定的に異なる要素がある。

近代マクロ経済学で景気循環の原因を説明する理論に当てはめると、コダックとGMの違いが浮かび上がってくる。

20世紀末に起きた産業構造の変化のうち最も大きなものが、アナログからデジタルへの転換だ。コダックにもそのインパクトの大きさは分かっていたはずだが、自社が変身することをためらい、他社に後れをとり、それが致命傷につながった。

1700年代後半に始まった産業革命以来、およそ50年周期で繰り返されるイノベーション(技術革新)が景気循環のうねりを生みだす「コンドラチェフの波」に乗り損ねたと理解することができる。

コダックは1935年に35ミリカラーフィルム「コダクローム」を開発し、大ヒット商品になった。同社はそれから40年後の75年に世界で初めてデジタルカメラを開発しながら、商品化では後手に回った。

コダックから遅れること10年。ソニーやカシオ計算機、富士フイルムなど日本勢がデジカメ開発に着手したが、今や世界の市場では日本製品が圧倒的なシェアを誇る。

フィルムの巨人、コダックの背中を追い続けた富士フイルムは、地道な研究開発と大胆なM&A(合併・買収)によって、医療機器や電子デバイスなどを含むデジタル製品や医薬品といった製品群を持つ多角化に成功している。

ではGMはどうか。自動車業界ではエコカーが脚光を浴びるが、テクノロジーの柱は依然としてガソリンエンジンだ。「走る、曲がる、止まる」といった自動車の3大機能は、1886年にドイツでカール・ベンツとゴットリープ・ダイムラーがガソリン車を生み出したころから変わっていない。

電気自動車(EV)は2020年時点でも自動車全体の数%にとどまるとの見方が多い。ガソリンから電池への転換は「機械から化学」と読み替えられる。

気が遠くなるほどのトライ・アンド・エラーを繰り返しながら最適な「レシピ」を作り上げていく化学の世界の進化は、「アナログからデジタル」ほど劇的に産業構造を変えるわけではない。

事実、GMはイノベーションに乗り遅れてはいなかった。病巣は別にあったのだ。

致命傷となったのは、野放図な経営が招いた米国での人件費の高騰だ。破綻前の従業員の時給は医療費負担など「レガシーコスト」も含めれば最大で80ドルに達した。

さらに一台あたりの収益率が高い大型車に安易に依存したことも響いた。2000年代半ばから燃料価格が右肩上がりで高騰したことから販売が急減。大型車の人気が根強かった米国を中心に巨額の赤字を垂れ流す悪循環に陥った。破綻直前の2008年通期決算では309億ドルの最終赤字を計上。そのうちの半分は北米事業の失策によるものだ。

破綻を経てGMの収益構造は劇的に変わった。11年1~10月期の最終黒字(85億ドル)の大半を稼ぎだしたのが、実は北米だ。破綻という"劇薬"を背景に全米自動車労組(UAW)との交渉にのぞみ、人件費の実質引き下げに成功。時給は19ドルからと大幅に下がった。

米オバマ政権の資本援助も得て、借金の返済にあてていた資金を研究開発費に回せるようになると、途端に歯車が回り始めた。中型セダン「シボレー・クルーズ」は世界中でヒットしGMの世界王者復活の原動力となった。出遅れていたエコカーでも13年にEVを投入し、同分野で先行する日本勢に挑む算段だ。

つまり、GMはいったん過去の失敗を清算し、必要なところに投資を回せば息を吹き返すだけの自力を持っていた。

景気循環論で言えば、約10年周期で企業の設備投資の増減から導き出す「ジュグラーの波」の軌道から外れていたといえるだろう。

このように考えていくと、結果論ではあるが、コダックと比べてGM再生のシナリオを描くのが易しいのは当然なのかもしれない。

GMが再生に要したのは約2年。翻ってコダックは、プリンターや医療機器での再起を期すがライバルの背中は遠い。やや強引だが、2つの波の周期の差をそのまま当てはめれば、コダック再生に必要な時間は10年となろうか。当然、残された従業員や取引先などステークホルダー(関係者)はそんなに待てないだろう。

ロシアの経済学者、コンドラチェフが技術革新による景気の長期波動を唱えたのは1925年。もちろんそのころ、「IT」という言葉はなかった。

ITにおける技術の進化速度は他のどの産業よりも速く、その分、企業の新陳代謝も激しい。「約50年」というイノベーションのサイクルも、ITには通用しない。

10年前に創業した新興企業が伝統企業を追い抜き、さらに、わずか数年前に産声を上げた若い会社が革新的な技術やサービスで世界に雄飛する時代だ。

かつての名門企業が再び輝きを取り戻すためには、いばらの道は避けられない。

(ニューヨーク=杉本貴司)

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