平成の人気商品NO.1はシャウエッセン 令和は?
日経POSで見る人気商品
「日経POS情報」は日本経済新聞社が全国のスーパーやコンビニエンスストアなど計1500店舗から収集した実売データを1985年から蓄積しているデータベース(DB)だ。食品や日用品など約265万品目に及ぶ商品の詳細な価格・販売データを有する。
日経では同データを基に、1年間に最も売れたり、売り上げを大きく伸ばしたりした商品を「日経POSセレクション」として選出している。今回は日経POSセレクションを中心にデータを調べ直してみた。
平成は定番商品が強みを発揮した時代だった。日経POS情報によると、全商品分野のなかで平成時代(1989年1月~2019年4月)の総合1位となったのは日本ハムの「シャウエッセン ポークあらびき ウインナー」。POSレジに買い物客が千人通ったときの売上金額で人気度合いを測る指標「来店客千人当たり販売金額」が、総合2位のアサヒビール「スーパードライ 350ミリリットル×6」の約1.2倍だった。
ウインナー自体も平成を通して売れた商品分野で6位につけた。そのなかでもシャウエッセンは2位の丸大食品「燻製屋 熟成あらびきポークウインナー」に来店客千人当たり販売金額で2.8倍と圧倒的な強さを見せた。
「ロングセラーとして客の信頼が高いため、リピーターが多い」(大手スーパー)うえ、「SNS(交流サイト)を活用した商品訴求がうまい」(食品卸)ことが勝因のようだ。
パリッとした食感へのこだわりから、これまで推奨してこなかった電子レンジでの調理を発売35年目の今年、「解禁」した。調理に時間をかけたくない消費者が増える中、新たな取り組みを怠らない。
ビールテイスト飲料(ノンアルコールビール)のブランド別シェアで平成ナンバーワンになったのは、サントリービール「オールフリー」。12年に登場したアサヒビール「ドライゼロ」と激しい首位争いを繰り広げたものの、最終的に平成1位の座に就いた。テレビ広告などの効果もあり「ブランド力がある」(酒類卸)ことが強みとなった。
明治「おいしい牛乳 900ミリリットル」は「2018年売上No.1」で総合3位に入った。16年に1リットル入りから900ミリリットル入りに変更し、一時はシェアを落とした。しかし、子供や高齢者でも開けやすいキャップや横幅を狭くして持ちやすくするなどの容器改良が評価され、徐々にシェアを回復。牛乳自体の売り上げが右肩下がりの中で奮闘した。
■令和の期待は… 「たんぱく質」に注目
2019年に大きく売り上げを伸ばし、20年以降も勢いが続きそうな商品を日経POS情報で調べてみたところ、健康や節約に効果が期待できそうな商品に動きがあることがわかった。
健康志向型の商品のなかでも特に「たんぱく質」に注目が集まっている。その代表格が明治「ザバス MILK PROTEIN脂肪0」シリーズだ。健康維持から一歩進んで、積極的に体を鍛えたい消費者を中心に支持を得ている。
筋肉を効率よく鍛える際、たんぱく質を数回に分けて摂取し、常に体内で切らないことが大切だ。スーパーやコンビニエンスストアといった身近な店頭で取り扱われ、いつでもどこでも飲めるプロテインとして売り上げを伸ばしている。
POSレジに買い物客が千人通ったときの売上金額で人気度合いを測る指標「来店客千人当たり販売金額」をみると、19年11月は前年同月と比較して2.6倍と非常に勢いがある。
肌や髪の質を保つのに、たんぱく質に注目が集まるようになり、最近は美容効果を期待して飲む女性も増えているという。
キッコーマン飲料「キッコーマン 豆乳おからパウダー」も、たんぱく質や食物繊維が手軽に取れるのが受けている。生のおからは栄養価が高い分、腐敗が早いのが欠点だった。同社は乾燥させるノウハウを確立しパウダー状に仕上げることに成功。賞味期限が約1年間と使い勝手がよい上、ヨーグルトや味噌汁、飲み物などに混ぜて、毎日、手軽に摂取できるようした。
来店客千人当たり販売金額は今年10、11月とも前年同月比で2桁増を続ける。「使い方がよく分からない」との声も寄せられているため、同社ではSNS(交流サイト)などを通じて活用法を積極的に発信し、さらなる顧客拡大を目指す。
■時短家事のお助け役
お金や時間が節約できる商品にも注目したい。例えば相模屋食料の「ひとり鍋」シリーズ。豆腐と調味たれ、電子レンジ対応のトレーがセットになっており、3分半で1人前の豆腐の鍋をつくることができる。
同シリーズの「あさりの旨み!海鮮スンドゥブ」の来店客千人当たり販売金額をみると、19年11月は前年同月比31%の大幅増。どのくらいの店で扱われているかを示すカバー率は、昨年11月の45%から今年11月は58%と上昇し、小売店のバイヤーから注目度も高くなっていることがわかる。
一人暮らし世帯を狙ったが、主婦層からも大きな支持を集めた。簡単におかずを1品増やせて時短家事につながるからだ。野菜や卵を加えれば、手抜き感も払拭できる。
東洋水産の「マルちゃん パリパリ無限」シリーズも時短家事に貢献する。揚げ麺と粉末スープ、特製油がセットになり、野菜を混ぜるだけで総菜を1品増やせる。残り物の野菜を無駄なく使うのにも役立つ。
野菜がいくらでも食べられるレシピとしてSNSで話題の「無限レシピ」に目をつけた。パリパリした麺の食感も奏功し、来店客千人当たり販売金額は今年10月が同2倍超、11月も同75%増と高い伸びを示す。「マルちゃん パリパリ無限キャベツのもと 1食入」のほか、もやし、レタスなど使う野菜に応じた商品バリエーションも多い。
一方、日清食品の「あっさりおいしいカップヌードル」はおなかとお財布に優しい商品。通常の「カップヌードル」より、あっさりした味付けにし、麺も約2割減らしシニア層や女性層がちょうどよい味と量に仕上げた。価格もカップヌードルより抑えた設定にしているため、「節約志向の消費者の受け皿になっている」(同社)という。
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売っているのは「モノ」じゃない (編集委員 中村直文)
人口が減り、1人当たりのカロリー摂取量が少なくなる今、消費者は何を求めているのか。モノそのものではない。欲しいのは新しい生活スタイルと情報だろう。
本社ビルを壊したり、人気のバンドや奇抜なキャラクターが登場したり、日清食品はなぜここまでコマーシャルにこだわるのか。「食べる」という基本的価値のアピールに加え、娯楽としての価値を訴えてたいからだろう。事実、同社ではどれだけ顧客に刺さったのか、ネット上のページビュー数の目標を常に掲げている。
そのために日清食品の戦略は3つに分かれる。店頭での地上戦、テレビコマーシャルなどの空中戦、そしてネットを活用したサイバー戦だ。話題にならないと消費者は振り向いてくれないとの考えから、様々なコミュニケーション手段を活用する。
飽食時代の加工食品はおなかを満たすだけでは売れない。せっかく食べるならば、健康にいい、財布に優しい、インスタ映えするなどの付加価値が重要だ。
例えば、明治の菓子詰め合わせ「きのこたけのこ袋」。食べたいものをちょっとずつ食べたいという志向に応じただけでない。ネットなどで「きのこの山とたけのこの里。あなたはどっち派」という"論争"が以前起きた。この商品は双方の和解を楽しむといった娯楽価値を提供している。
通常の2倍の値段で売れるもやしが話題になった。サラダコスモ(岐阜県中津川市)の大豆もやしだが、消費者は高いもやしを買ったわけではない。この商品の袋に大きく印刷している「イソフラボン」という栄養素を買っているのだ。今の消費者は忙しい。食べながら健康を守るのが1番手っ取り早い。
それをいかに無理なく、提供できるか。キッコーマン飲料の「キッコーマン 豆乳おからパウダー」は味噌汁やヨーグルトなどに入れることができる。東洋水産の「マルちゃん パリパリ無限キャベツのもと 1食入」も興味深い。簡単に調理でき、野菜をつまみに変えられるほか、スナック菓子のようなパリパリ麺の食感が野菜嫌いの子供の食欲も促す。1品増やしたい主婦も助かる。
消費は「モノ」から「コト」へ。そして今やその時、その場所でしか味わえない「トキ」の時代とも言われる。まさに生活の瞬間を楽しむ素材を提供するマインドが企業に求められている。
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[2019年12月29日付 日本経済新聞朝刊]
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