JR貨物が所有する多数のコンテナの中にたった二つだけ、人が乗ることができるものがあるのをご存じでしょうか。
ZX45A、通称「リサーチキャビン」。貨物車両の開発や改良のための計測機器を積む事業用コンテナです。これまで一度もマスメディアに取材されたことがないというその内部を見せてもらいました。
愛知県稲沢市の愛知機関区。電気機関車EF210に連結された貨車の上に載せられていました。長さ約9・1メートル、幅約2・4メートル、高さ約2・6メートル。銀色の車体に紫色の帯を巻いています。
室内には計測用の機器を並べる棚や、モニターを設置するテーブルがあり、パイプ椅子が並んでいます。取材日は、パソコンや小型カメラなどが載っているだけでしたが、計測する内容によっては、数十個の測定器や記録装置が所狭しと並ぶそうです。測定対象となる貨物車両の隣にリサーチキャビンを載せた車両を連結し、キャビン側面の穴からケーブルを出して対象の車両につけたセンサーとつなぎます。車輪や台車にどのような力がかかっているかや、台車の各部がどのように動くかを計測します。
「(ポイントの曲線部を通過するときなどに)『ガッツン、ガッツン』というような揺れを感じることもあります。電車のような居住性とは違いますね。(初めて乗るまでは)すごく大変な環境なんだろうなと思っていたのですが、意外とそうでもなかったというのが正直な感想です」。JR貨物車両部試験センターの山本喜久センター長はそう話します。多いときはJR貨物の職員のほか、鉄道総合技術研究所や車両メーカーの職員が10人以上乗る室内には、通常の家庭用エアコンも設置されています。
計測用のコンテナは過去にも存在しました。事業用コンテナ「Z」です。内部に発電機を積んでいないことから、「ZGZ」という発電専用のコンテナと一緒に使われました。「ZX45Aと比較して居室が狭く、作業環境の面で苦労したようです」
リサーチキャビンは2002年、世界初の電車型特急コンテナ列車「スーパーレールカーゴ」の開発と同時期に東急車両製造(現・総合車両製作所)によって製作され、その性能試験が最初の任務でした。多くの測定担当者が乗るために同じものが二つ造られました。スーパーレールカーゴの営業開始後は、コンテナ車の新たな基本形式を目指した「コキ107形式」や、海上コンテナを輸送するための「コキ73形式」などの開発に活用されました。
「走行試験を実施することには、鉄道に関するさまざまなエッセンスが詰まっています。列車のダイヤを組まなければならないし、編成の組成作業も計画しないといけない。運転士も、試験専門で(常に)誰かがいるというわけではないため、現場の協力を仰がなければならない。そういった意味でのダイナミクスといいますか、鉄道を走らせていることを実感できることにやりがいを感じます」と山本さん。23年度は北海道と東海で計2500キロほどの走行試験に利用されました。
運行スケジュールは非公表ですが、もし目にした時は、その中で働く人々の仕事に、思いをはせてみてはいかがでしょうか。【渡部直樹】