あまりにも寂しかった堺市長選初日の維新街頭演説会、報道陣・警護陣・選挙スタッフの方が聴衆よりも多かった堺東駅前で橋下氏の顔が青ざめた、堺市長選の分析(その12)、改憲勢力に如何に立ち向かうか(42)

 台風が接近していたためか、堺市長選初日の天候は断続的に雨が降るという最悪に近い状態だった。しかし、それにしても橋下維新の街頭演説会はあまりにも寂しすぎた。9月15日午後1時から始まった堺東駅前の大阪維新の街頭演説会には、およそ200人余りの人たちが集まったものの、ざっと見渡したところ、報道陣(新聞、テレビ、ニコニコ動画など)50人、警護陣(大阪府警SPなど)20人、維新の選挙スタッフ(専属スタッフ、近畿一円から集められた地方議員・秘書など)70人、その他聴衆60〜70人という内訳だった。

 そんなこともあって、いつもは満面の笑みを浮かべて登場する橋下氏の顔色がいっこうに冴えない。街宣車の上には橋下、松井、松野(国会議員団幹事長)の維新3幹部と候補者が並んだが、当初はブスッと押し黙ったままで雰囲気がなかなか盛り上がらないのである。司会の若手弁士が懸命になって盛り上げようとしていたが、橋下氏がマイクを握っても拍手が起らない。こんな光景は橋下氏自身にとってもおそらく初めてのことではないか。

 維新の街頭演説を聞いて感じることは、橋下維新はもはや“ネタ切れ”に近い状態だということだ。松野、松井、橋下、候補者の順に各氏が喋ったが、誰も言うことは同じで新しい中身がまったくないのである。「堺は無くしません。無くすのは市長と市役所と市議会だけ」、「大阪都に参加して堺を元気にする」、「水と油の自民と共産が応援する竹山市政では堺は駄目になる」、こんな数少ないフレーズの繰り返しだけなのだ。

 街頭演説会が始まる前に、駅周辺で立ち話程度の個人的なヒアリング調査を試みた。以下、その簡単な結果を報告しよう。
(1)うどん屋のオバサン(50歳代)、「選挙が始まったばかりやから、どっちが優勢かわからへん。でも私ら堺市民やから、堺を無くすと言われたら困るわ(後は沈黙)」
(2)洋品雑貨店主(40歳代、男性)、「いまでも駅前は寂しいのに、市役所が無くなったらガラガラになる。そうなったらいったいどうするんや。私ら食っていかれへんやないか(憤然と怒る)」
(3)放置自転車整理員(60歳代、男性)、「ここ数日間、維新が駅前でビラを撒いてたが、受け取るのは10人のうち2、3人ぐらいや。維新もそろそろ落ち目と違うか。今度の選挙ではすべるかもしれへん(客観的口調で論評)」
(4)別の整理員(60歳代、男性)、「橋下さんの演説というても大阪都のことばっかりやないか。なんで堺のことをもっといわんのや。これは竹山さんも同じことや。それに竹山さんとこのウグイス嬢は早口で何を言うてるのか、さっぱりわからへん(竹山氏へのボヤキ)」
(5)「維新長浜支部」(滋賀県)のTシャツを着た運動員(40歳代、女性)、「こんなに人が少ないのは初めて。他の場所ではもっと多いのに。維新が落ち目だなんてとんでもない。でも頑張ります(当惑した風情)」

 立ち話程度のことなので、これで堺市長選がどうなるといった大それたことを言うつもりはない。また、若い人たちの意見も聞こうと思ったが、日曜日の午後なのにほとんど姿が見えないので諦めた。それでも選挙戦初日に維新の雰囲気をつかめたことはそれなりに収穫だったと思う。選挙前の街頭演説会(同じ場所)ではいつも数百人近い聴衆を集めていた維新が、天候のせいもあるがここに来て急速に勢いを失ってきているような気がするのである。

 私の当初の選挙予想では、橋下維新は候補者擁立で出遅れたものの、選挙告示後は猛然と巻き返し、マスメディアのいう“絨毯爆撃”で総攻撃を開始するものとばかり思っていた。選挙はまだ序盤戦なので、今後そういった情勢になっていくのかもしれないが、でも何となく「様子が違う」「元気がない」と感じているのはどうやら私だけではなさそうなのだ。街頭演説会の模様を取材していた記者とも雑談を交わしたが、彼らも同様の感想を述べていた。この原因はいったいどこにあるのであろうか。

 第1に考えられるのは、読売・産経などの新聞世論調査の影響である。読売新聞などは自らの調査結果の余りの反響の大きさに驚き、それ以降、選挙情勢については突っ込んだ報道を控えている。このままで行けば、橋下維新の“雪崩的大敗北”が起るかもしれないと懸念しているのかもしれない。一方、これまで堺市民は「大阪都構想」を半信半疑で眺めていたのだが、世論調査で「堺市の参加には反対」という意見が大半だとわかって、「やっぱりそうだったのか」と妙に納得したのである。

 こうなってくると、橋下氏がいくら絶叫したところで途端に堺市民の反応が鈍くなる。「大阪都構想」の是非で幕あけた堺市長選は、告示後は明らかに堺市政の具体的課題にどう取り組むかということに局面がシフトしたのである。「大阪都構想のことばかり言っていないで、堺のことをもっと言え」という市民の声は、堺市長選の関心が「大阪都構想」から「堺市政」に移行したことを反映している。

 だが悲しいことに、堺市の吸収合併を前提にした橋下維新の選挙政策には、もともと「堺市政」の課題など眼中になかった。堺市を無くすのだから「堺市政」の問題など考える必要がなかったからだ。だから、橋下氏がいくら雄弁でも「無いものは喋れない」のである。(つづく)