ダイヤモンドの人間学(広澤克実) 理不尽CS、巨人が負けたら変わるのか
プロ野球はクライマックスシリーズ(CS)、日本シリーズという1年のヤマ場を迎える。レギュラーシーズン大詰めのパ・リーグ、西武―ロッテの最終戦は2、3位を決める直接対決となり、大入り満員になるほど盛り上がった。
■3位まで無条件、"安易"なCS制度
だが、その盛り上がりに素直に喜べない自分がいる。3位までが無条件にポストシーズンに進めるという現行制度の"安易さ"が、どうしても引っかかるのだ。
昨年のセ・リーグのCSを思い出してほしい。10.5ゲーム差をつけて優勝した巨人と2位中日とのファイナルステージで、中日が王手をかけた。あのまま中日が押し切って日本シリーズに進出していたら、どうなっていただろうと、いささか理不尽さを感じた。
感情論と現実論は違う。感情的には中日が勝利したときにはある種の爽快さがあったかもしれない。しかし、現実的には10ゲームも差をつけてセ・リーグを制したチームが日本シリーズに進出できないことに制度の不備を感じてしまうのだ。
■勝率5割未満同士のシリーズありか?
可能性だけで言えば3位同士の日本シリーズがあるのだ。もっと掘り下げれば レギュラーシーズンで勝率5割を切ったチーム同士の日本シリーズもあり得るのだ。こんな制度を我々は支持していいのだろうか、という率直な疑問があるのだ。
2010年のロッテのようにリーグ3位から日本一になったチームも実際にある。しかし、下克上という言葉でかき消されているが、レギュラーシーズンの結果があまりに軽視されていて144試合をする意味すら考えさせられる。
海の向こう、メジャーリーグのプレーオフはナ・ア両リーグ、それぞれ東、中、西の3地区の優勝チーム(計6球団)と、3チーム同士では不都合だからワイルドカードという2位の中の最高勝率のチームをそれぞれ加え、4チームでリーグ優勝を決める。ある意味理にかなった制度である。そしてリーグ優勝チーム同士がワールドシリーズを戦うという、 とてもシンプルでわかりやすい仕組みになっている。
■海外では優勝相当チームが有利に
ここで大事なことは、プレーオフに出てくるチームは地区優勝もしくはそれに準じるチームであることだ。また昨年から優勝に準じるワイルドカードのチームについては、上位2チーム同士による最終決定戦を行っている。これには優勝をしていないチームにハードルを設け、地区シリーズまでに疲弊させるというディスアドバンテージを課す意味合いがある。
野球界以外でもプレーオフ制度のあるプロスポーツは、バスケットボールのNBAのように優勝以外のチームが多数プレーオフに進出する競技もあるが、おおむね地区優勝に相当するチームが有利にプレーオフを行う。
アメリカンフットボールのNFLは近年地区を増やすことで地区優勝チームそのものを多くした。サッカーでは欧州チャンピオンズリーグに進出するチームは文字通り各国のチャンピオン。四大リーグからは複数チームが進出するが、勝率が高いチームのみが進出できる仕組みだ。
■広島のAクラス、素直にたたえるが…
どこのリーグもいろいろと工夫を凝らしているのがわかる。そんな中、日本のプロ野球だけがリーグ内の半数のチームがプレーオフに進める制度になっている。しかも、レギュラーシーズンを勝ち越していなくても進出できるというのは、世界的には考えられない仕組みといえる。まるでバラエティーのクイズ番組で「最後の問題を答えられたら逆転優勝」みたいな軽いノリだ。
今年のセ・リーグ3位は広島カープだ。16年ぶりのAクラスは素直にその功績をたたえたい。しかし、それとプレーオフ進出とは話が違うのだ。広島の苦節を重ねた16年間と、69勝72敗3分けのレギュラーシーズンを負け越したチームが日本シリーズへ駒を進められるという事態を、わけて考えなくてはならない。何のために長い期間ペナントレースを戦うのか理解に苦しむ。
■借金3で「日本一」では権威なくなる
だいたい、セ・パそれぞれ6球団の中で3球団ずつがCSのようなプレーオフに進出できる制度に問題がある。12球団で6チームがプレーオフをする。これは甘すぎる。メジャーリーグは30球団あり その中の10チームのみがプレーオフを戦うのだ。
もし広島が日本シリーズを制したら、それはそれでまた「下克上」と話題になるのだろうが、問題は「プロ野球日本一」の権威だ。日本シリーズの権威がなくなる。
あくまで仮定の話だが、借金3のチームを「日本一」とするようなことをしていたら、プロ野球は自分で自分をおとしめることになる。日本シリーズとはあくまでリーグを代表して戦うものだ。それにふさわしい成績でなくてはならない。セ・リーグでいえば、12.5ゲームも差をつけられた2位の阪神タイガースにもその資格がない、と私は思う。
■現行制度維持なら最低限のハードルを
もし現行の制度でいくなら、最低限のハードルは設けたい。優勝チームと5ゲーム差以内のチームならポストシーズン進出を認める。5ゲーム差を6ないし7ゲーム差にする妥協案はあるが、10ゲーム差は論外である。
もし、今年のような結果ならばその年はCSを行わないという制度なら、まだ納得できる。また、オールスター戦までを前期(ファーストステージ) 、それ以降を後期(セカンドステージ)とし、前期と後期の優勝者同士でプレーオフを行うのもシンプルでわかりやすい。
「盛り上がればいい」「興行的にもうかればいい」という発想だけで考えていくと権威が失われ、今まで積み上げてきた伝統も損なわれかねない。
1950年の2リーグ分立後から続けられてきた日本シリーズの歴史まで、傷つけることになりかねないのだ。
■5年前の日本一チーム、答えられるか
CSによってファンもシーズン終盤のつかの間の盛り上がりに浸ることはできるだろうが、長い目でみると大切なものを失うことになりかねない。
たとえば4、5年前のセ、パの優勝チーム、そして日本一チームを答えなさい、といわれたときにすらすら答えられる人は一体どれだけいるだろうか。リーグ優勝の値打ちも、日本シリーズの権威もそれくらい落ちているということだ。
ひと昔前は2位も最下位も負けは負けだったが、今は3位に入ればある程度格好がつくことで、チーム関係者の責任の所在も曖昧になりつつある。
まだ、次期コミッショナーが決まっていないが、今球界にはこうした問題が山積している。見るものが興奮するようなイベントを設けること、赤字が膨らむ球団経営、そして伝統を守るといった課題を解決できる能力を持った人物が必要である。
企画力、経営力、発想力を持ち合わせた人物が次期コミッショナーに就任してほしい。
■今年巨人が敗れた場合、球界の反応は
ただ、CSだけなら私が心配しなくても変えられる可能性がある。それには今年、巨人が負けることだ。2位と3位が戦うファーストステージで勝ち上がったチームに巨人が負け、日本シリーズへ行くことができなかった場合、この理不尽さを強烈に訴える人が必ず出てくる。
2位以下にこれだけのゲーム差をつけたのに、日本シリーズへ行けなかったとなれば黙ってはいられないだろう。そしてその声が大きければ大きいほど、この理不尽なプレーオフを変える動きも出てくるだろう。
巨人が敗れるという衝撃的なハプニングが起こった場合、球界はどんな反応をするのか見たい気もする。そうなれば、理不尽な制度を見直す機運が出てくるだろうし、球界を本当に動かしている根本の構図が明らかになってくる。
(野球評論家)