就活生を理解していない 間違いだらけの企業「ソー活」
ブロガー 藤代 裕之
ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の「フェイスブック」に採用情報を公開するページを開設するなど、企業の人材採用でソーシャルメディアの活用が増えている。ソーシャルメディアを使った就職活動が「ソー活」と呼ばれるなど、応募する学生にとってもソーシャルメディアは重要な情報源といえる。
ネット上で企業と学生が簡単にやり取りできるので、採用に関する細かい要望なども確認すれば互いのミスマッチが回避される、というのがメリットのはず。だが、実際は企業からの単なる情報提供ページに終わってしまい、双方向に十分活用できているとは言いがたい。企業はどうすればソーシャルメディアの特性を人材採用に生かせるのだろうか。
人気があるのはニトリのページ
「ソー活」という呼び方は、2011年1月にリクルートが発表した「2011年のトレンド予測」で初めて登場したようだ。リクルートは「選び合いが加速し、対面では「武装」してしまいがちな学生と企業の双方が、ソーシャルメディアなどのオンライン(画面)では本音をさらけ出しあい、リアルな場よりもリアルな双方向の白熱コミュニケーションが展開される」としている。
たとえば、KDDIはフェイスブックと共同でソーシャルメディアを活用した就職活動の応援サイト「talk.」を11年12月に開設。フェイスブックの活用方法を紹介するだけでなく、フェイスブックの友人から長所や短所をコメントしてもらえる「ソーシャル他己診断」の機能や、志望職種や志望業界が似た就職活動中の学生が見つかる、「就活フレンド」というマッチング機能や検索アプリを提供している。
大手企業からは、就職活動用フェイスブックページの開設が相次いだ。アクセス解析企業のユーザーローカル(東京・渋谷)は、「いいね!」ボタンを押しているユーザーを毎日計測してランキングした「ソーシャル就職人気企業ランキング」をサイトで公開している。これによると、総合ランキングではニトリが1位だった(11年12月28日時点)。さらに、日本生命やリクルート、電通、東京海上日動火災保険、大和証券グループ、ポケモン、第一生命保険、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&G)、博報堂など、学生にもよく知られた企業が並んでいる。
同ランキングでは推定の男女比も表示しており、たとえば「メーカーランキング」で上位にある化粧品会社のオルビス(東京・品川)は9割が女性で、ホンダは7割が男性と企業の人気の傾向も分かる。フェイスブックページで展開されているだけに、企業がどのような取り組みをしているのかが分かり、学生でなくとも興味深い。だが、そこにはリクルートが予想したような双方向な白熱コミュニケーションは見当たらない。
フェイスブックページのコンテンツは、各社ともトップのメッセージ、先輩社員や企業説明会の様子を紹介するなど共通している。キャラクターを使う企業や、旅行やオフの様子を写真で見せたり、お薦めのビジネス書を紹介したり、親しみを持ってもらう工夫はみられるが、学生からのコメントは少ない。
1位のニトリはやはりコメントが多い。人事担当者が顔を出し、メッセージや動画配信しているからだろう。しかも、ニトリも学生のコメント一つひとつに「いいね!」を押している。学生の書き込みへの対応はP&Gも取り組んでいる。やはり人気企業は学生への対応がきめ細かいようだ。
学生の立場を考慮しているか
ソー活はまだ始まったばかりで試行錯誤という面もあるだろうが、フェイスブックを利用しても、企業が一方的に情報を提供するだけでは、これまでと変わらない。
低調な理由は、企業ではなく就職活動の学生の立場になって考えてみると分かる。フェイスブックページは学生以外の誰もが見ることができる。そんな中で、自分の名前を出して、コメントを書き込むのは大きなリスクだ。思い切って大学や名前を名乗って自分の考えを書き込んでいる学生もいるが、これまでにない厳しい就職活動戦線に、不安が広がる学生は難しい判断を迫られる。突出するのは避けたい、アピールもしたいと迷うだろう。
企業はソーシャルメディアの活用以前に、コミュニケーションの重要なポイントである相手のことを配慮する姿勢に欠けているのではないか。少なくともページでどのようなコミュニケーションを行おうとしているのか、方針ぐらいは示したい。ニトリは、「可能な限り回答したいが、すべてに返信することはできない」などといったガイドラインを公開している。学生の書き込みに「いいね!」を押す企業は、学生にとっては書き込んでいいんだという安心をもたらす。
学生を巻き込んでしまうカバヤ
ユニークな試みをしているのが岡山市の菓子メーカー、カバヤ食品だ。同社のフェイスブックページを見ると、大学での説明会では学生と一緒に写真を撮影してアップするなど、学生を巻き込んでいる。
カバヤでは、05年から「いろんな社員が汗を流し喜びや悲しみの中でいろんな想いを持って働いている 達成感や挫折いろんな想いがある。その想いを知ってもらいたい」とブログの活用を開始。担当者が「ツイッター」に関心があり、11年度の採用にあたりツイッターも使っている。実際に、ツイッターを通じてコミュニケーションしてきた学生が内定にまで至ったという。
さらにフェイスブックを、ミスマッチと内定辞退の防止に利用し始めた。単に就活だけでなく、カバヤで働く社員を全面に押し出して、同社の魅力を訴求している。
カバヤの多田章利総務部長は「いいね!の数ではない。こちら(カバヤ)が発信する事でコメントを書いてくれる人が増えてきているので、ゆるやかな交流を続けて、たとえ他社に入社しても、ファンとして就活生と一緒に話をしてくれるような場にしたい」と言う。
ブームに踊らされていないか
ソーシャルメディアの特徴は人と人とのつながりにある。就職活動で企業と接した学生は、将来の顧客や取引先になるかもしれない。カバヤのように、ソーシャルメディアで出会った関係をゆるくつなげることでファンを増やしていくという長期的な視点を持っているだろうか。
単にブームだから、他社がやっているから、といってフェイスブックページを開設していたり、ページへの「いいね!」ボタン数で人気度を競っていたり、担当者がソーシャルメディアを自分で使っていなかったりしていないだろうか。自社に新しい仲間を迎える採用活動なのに、フェイスブックページの運用をどこかの企業に委託していないだろうか。
ソーシャルメディアを使うと、企業が学生についてどれくらい考え、向き合っているのかが外部に分かる。知らぬ間に企業姿勢が「丸見え」になっているのだ。それだけに真剣に取り組む必要がある。
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。学習院大学非常勤講師。2004年からブログ「ガ島通信」(http://d.hatena.ne.jp/gatonews/)を執筆、日本のアルファブロガーの1人として知られる。