ビッグデータ分析に人材の壁、25万人不足見通し
IT各社、育成へ本腰
IT(情報技術)業界など産業界が注目する「ビッグデータ」ビジネスで、専門家不足が顕在化し始めた。データを分析する「データサイエンティスト」と呼ばれる人材で、現在日本には千人程度しかいないといわれる。政府は関連ビジネスの経済効果を7兆円超と試算するが、将来的には25万人が不足する見通しだ。危機感を募らせる業界は研究機関などと連携して人材育成へ本腰を入れ始めた。
ビッグデータは新聞約50億ページ分にも及ぶ大量のデータを指す。小売業界などが消費者の嗜好を精緻に分析してマーケティングや商品開発に生かそうとしたり、自動車各社が膨大な走行データの解析などを通してより安全でエネルギー効率の高いクルマの開発につなげようとしたりするなど、ビッグデータ応用の動きが産業界全体に広がっている。
産学連携で組織
だがここにきて、分析を担うデータサイエンティスト不足が顕著になっている。大学や大学院で統計学や数理学などを修めた人材で、豊富なIT知識も求められる。企業・組織の課題を的確に把握し、解決策を提案するコンサルティング能力なども不可欠だ。
将来の日本企業の競争力を左右しかねないだけに産業界の危機感は強い。16日には産学連携の組織「データサイエンティスト協会」が発足した。
ビッグデータ分析サービス大手のブレインパッドと大学共同利用機関法人、情報・システム研究機構の統計数理研究所が協力して、人材不足を解消するための取り組みを始める。2014年3月までに必要なスキルや能力を明文化し、16年4月以降、認定制度も開始する予定だ。
同研究所の樋口知之所長によると、日本ではビッグデータ解析に必要となる統計科学や数理工学、人工知能などが経験を覚える機械学習、データマイニングなどを総合的に研究するのは同研究所しかないという。潜在的スキルを持つ統計学専攻などの大卒者も年間4千人弱と米国の2万5千人に比べ圧倒的に少ない。
自社努力で必要な人材を増やす試みも始まった。富士通やNECは15年までに、データサイエンティストを現在の100人から倍増させて200人に増やす。立教大学が今年5月から経営学部内に養成講座を設けるなど、大学でも人材育成に乗り出す動きがでている。
経済効果7兆円超
データサイエンティストはビッグデータビジネス拡大のカギを握る。過去の経験や知識に基づき、目の前の大量のデータを分析して予測モデルを導き出す。米グーグルがビッグデータを活用して検索精度の向上に結びつけるなど、米ネット企業の成功の陰の立役者ともいわれる。
総務省が16日に発表した「情報通信白書」によると、ビッグデータをフル活用した場合、現状でも年間7兆7700億円の経済効果が見込めるという。
米調査会社ガートナーは将来的に国内ではデータサイエンティストが約25万人不足すると予測する。人材確保を巡って、今後は企業間での獲得競争も激しくなりそうだ。