防空識別圏で増える市場のリスクシナリオ
米軍爆撃機が防空識別圏(ADIZ)を飛行したと欧米メディアが相次いで報じている。日本では、顧客安全第一と飛行計画を中国側に提出していた国内の航空各社が政府の要請を受け提出しないことを決めた。海外出張者にも愛国心が問われかねない、などのコメントを聞くと、国内外のマーケットへの影響も無視できない。
まず、株式市場では欧米投資家マネーの反応が気になる。筆者が今年5月と9月にウォール街を回ったときも、日本株投資の「チャイナリスク」を懸念材料とするファンド・年金基金が多かった。具体的には靖国参拝の可能性などを聞かれたが、さすがにADIZ設定は想定外のシナリオであった。
日本株がアベノミクス相場の上昇第2ラウンドを迎え、バリュエーションではまだ買えると動いていた外国人投資家たちが、今後の展開次第で、この地政学的要因にどのように反応するのか、注目される。
次に、外為市場では有事のドル買いの可能性がある。さすがに当事国日本の通貨、円に「安全性」を求めるマネーが流入する状況は考えにくい。ADIZでの偶発的イベント発生が、チャート上の円安抵抗線を突破して円売りが加速するキッカケになるシナリオはありうる。
債券市場では、中国が保有している1兆2938億ドル(今年9月末現在)の米国債の一部を売却するような行動に出ることが絵空事とはいえないと感じる。米国側から見れば、来年1~2月に先送りされた財政問題を抱え、10年債の利回りが3%を急激に突破するような状況は避けたいところだ。中国側から見れば、大量保有の米国債は「人質」でもあり、米国経済をかく乱する「武器」と見なすかもしれない。
対して、1兆1781億ドル(第2位)に達する日本の米国債保有は、「トモダチ作戦」のパートナーへの友情の証しか?
そして、商品市場では「有事の金」が話題になりそうだが、10月の米国財政「有事」の際にも買われなかった。欧州債務不安が再燃して、今年は「リスクオフ」で「リスク資産」として売られている。代わって「有事のドル」が買われることになりそうだ。2014年に向けて市場のリスクシナリオが一つ増えたようだ。
豊島逸夫事務所(2011年10月3日設立)代表。11年9月末までワールド ゴールド カウンシル(WGC)日本代表を務めた。
1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラーとなる。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験をもとに金の第一人者として素人にも分かりやすく、独立系の立場からポジショントーク無しで、金市場に限らず国際金融、マクロ経済動向についても説く。
ブログは「豊島逸夫の手帖」http://www.mmc.co.jp/gold/market/toshima_t/index.html
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