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うすくちしょうゆ 関西で生まれた理由

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 関西人が東京でうどんを食べたら、黒いつゆに驚いたというのはよく聞く話。逆に関東出身の記者は15年前に大阪に住み始めた時、透き通ったうどんだし汁のおいしさに感動した。そのだし汁に欠かせないのが色の淡いうすくちしょうゆ。兵庫・龍野(現たつの市)生まれのうすくちの歴史と関西の食文化との関係を探った。

まず訪れたのがたつの市のヒガシマル醤油(しょうゆ)。1580年ごろ創業のうすくちしょうゆのトップメーカーだ。取締役営業連絡部長の大谷正幸さんに造り方を教えてもらった。

「しょうゆの原料は大豆、小麦、塩ですが、うすくちはコメが加わる。甘酒を入れるためです。それ以外はこいくちと大きくは変わりませんが、各工程で色をつけない工夫をしています」

麹(こうじ)に塩水を加えてもろみを造る工程。塩分濃度を高め、発酵の進行を緩やかにする。「(色をうすくする)コストは相当かけている」(大谷さん)

続いて同社の旧社屋を改装した「うすくち龍野醤油資料館」を訪れた。大豆を煮る釜やコメを蒸して甘酒にするための釜など、過去に使われていた道具が並ぶ。「麦をいる時間を短くするなど、色をうすくする工夫は昔から行われていました」と館長の沢勤さん。

◇            ◇

うすくちしょうゆが生まれた経緯は? 資料館の年表には1666年「淡口(うすくち)醤油を円尾孫右衛門が造り出し」とある。そこから龍野全体に広がったという。円尾は龍野でしょうゆ造りをしていた人物だが、いかに技術を確立したかは分かっていない。

「龍野を流れる揖保川の伏流水はミネラル分の少ない軟水。それでしょうゆを造ったら(発酵が緩やかになり)通常より色の淡いものができた。それが京都などで喜ばれ、さらに色をうすくする工夫を加えたのでは」と大谷さんは見る。

甘酒を加え始めたのは19世紀初め。酒造業を兼業していたなごりなど、理由にはいくつかの説がある。その中に京料理によく使われるみりんと合うからというものもあり、需要地の好みに合わせた可能性は高い。

「日本の味 醤油の歴史」という本の編者で神戸大学教授の天野雅敏さんにも、うすくち誕生の背景について聞いた。「円尾家の史料では1690年に『す(澄)み醤油』という言葉が登場するので、確かに17世紀末にはうすくちは誕生していたのでしょう」。さらに「その前には濁り酒と異なる『澄(すみ)酒』と呼ばれた清酒が生まれている。清酒同様、うすくちという新しいしょうゆは歓迎されたと思われます」と話す。

◇            ◇

今も関西の和食の料理人にとって、うすくちは欠かせない存在。なにわ料理研究家の上野修三さんは「日本料理は素材の持ち味を最大限に生かす食材第一主義。邪魔しないうすくちはそれに合う」と話す。煮物だけでなく、昆布だしを加えて白身魚の刺し身じょうゆとしても使っている。「もっと家庭でも使ってほしい」と、レシピ集「淡口しょうゆで仕上げるとびきりの和食」を監修・刊行した。

ここで疑問が。うすくちは色とともに香りも抑えている。それを使った関西のだし汁がよい香りがするのはどうしてだろう。

それに答えてくれたのが、東京から神戸まで東海道の各都市のうどんだし汁について調べた関西福祉科学大学教授の的場輝佳さん。「関東のだし汁はこいくちを使うため、しょうゆの香りが前面に出る。一方、関西は昆布や削り節などだしの香りが残るので、だしがきいていると感じるのです」。需要は漸減傾向というが、今もうすくちしょうゆが関西の食文化を支えていることを実感した。

(編集委員 中野稔)

[日本経済新聞大阪夕刊いまドキ関西2012年12月5日付]

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