「生身の人間に興味増す」 村上春樹さん講演
作家の村上春樹さん(64)が6日、京都市左京区の京都大百周年記念ホールでの「公開インタビュー」に登場した。4月12日に出版した小説「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」について「生身の人間に対する興味が出てきた」と語り、当初の予定より登場人物が増えたという創作の背景や自身の小説家としての歩みなどについて語った。
村上さんが国内の公の場で話をするのは極めてまれ。ユーモアを交えるなどリラックスした雰囲気で、抽選で参加した約500人が世界的人気作家の肉声に耳を傾けた。
村上さんは、「多崎つくる」の登場人物に自身も導かれるように書いたといい、「導かれて何かを体験することで、自分がより大きくなる感覚がある。読む人の中でもそういう感覚があればいいなと思う」と"共感"を期待した。
「河合隼雄物語賞・学芸賞」創設を記念した公開インタビューのテーマは「魂を観る、魂を書く」。文芸評論家の湯川豊さんが聞き手を務めた。
村上さんはデビュー以降の歩みを振り返った。小説のスタイルや文学的な体験を明かした上で「魂のネットワークのようなものをつくりたい気持ちが出てきた」「人と人のつながりに強い関心を持つようになった」と心境の変化を告白した。
インタビューに先立って講演した村上さんは「物語は人の魂の奥底にある。人の心の一番深い場所にあるから、人と人とを根元でつなぎ合わせることができる」と持論を展開。「深い場所」について臨床心理学者の河合さんとは理解し合えたといい、「僕が深い共感を抱くことができたのは河合先生以外にいなかった」と故人をしのんだ。
河合さんは京都大名誉教授で、元文化庁長官。2007年に79歳で亡くなった。
村上さんは最近では、04年に東京の書店でトークイベントに登場したほか、07年に早稲田大学坪内逍遥大賞の贈呈式でスピーチしている。〔共同〕