LINEが変える企業と顧客の接点 さらば電話時代
(徳力基彦)
スマートフォン(スマホ)向けメッセージアプリ「LINE」の登録ユーザー数が4月2日、世界で4億人を超えた。3億人ユーザーを達成した2013年11月から4カ月余りで1億人を積み増した。世界で5億人ユーザー達成を14年の目標の1つに掲げるLINE(東京・渋谷)だが、今の拡大ペースは「目標が小さすぎ」との声さえ聞こえてきそうな勢いだ。

今年2月には米フェイスブックがLINEのライバルとされるメッセージアプリの米ワッツアップ(WhatsApp)を190億ドル(約1兆9300億円)という巨額な評価で買収。世界的にもメッセージアプリへの注目は高い。企業担当者が意識すべきは、メッセージアプリが企業と顧客のコミュニケーション手段として今後どう位置付けられるかだろう。
特に日本企業には、LINEが2月に発表した企業向けアカウントの新機能「LINEビジネスコネクト」の動向が気になるところだ。企業からユーザー向けに一方通行でメッセージを一斉配信するのではなく、特定ユーザーに最適化したメッセージを送れる機能だ。
企業がLINEユーザーとコミュニケーションを取りたい場合、従来は基本的にはメールマガジンと同じく全員に同じメッセージを送信するしかなかった。だがLINEビジネスコネクトは、ピザが好きな人に宣伝や注文方法を送ったり、タクシーによく乗る人に配車手配を勧めたりと、個別の対応が可能になる。
従来電話やメールで行っていた顧客から企業へのコンタクトが、LINE経由に置き換わる可能性が見えてきたわけだ。LINEを使っていない人には荒唐無稽な話に聞こえるかもしれないが、実は企業とユーザー間のコミュニケーションツールは、この数十年間で劇的な変化を遂げている。

昔は対面だけだった顧客から企業への注文行為が、郵便→電話→FAX→パソコンのメールやインターネット経由、と進化。携帯電話からネット経由でも可能になった。そのたびに、保守的な人は「電話注文なんてありえない」「メールで顧客サポートなんて不可能」「携帯のネット経由で高価な商品を買うわけがない」と、新しいツールを否定してきた。
だが、企業と顧客のコミュニケーションの主流は次々と登場する便利で新しい手段にシフトしてきた。総務省によると、10~20代の平日のLINE利用時間は13年に、メールよりも多くなったという。企業は常に顧客が求める新しいコミュニケーションツールへの対応を迫られることになる。
デジタルサービスは栄枯盛衰が早いため、10年後もLINEがスマホのメッセージ手段として君臨しているかは分からない。だが気の利いた個人タクシーの運転手がLINEで顧客とつながり、要請があればすぐに迎えに行くような個別サービスが実際に動き出している現実は無視できない。
大規模なタクシー会社も当然ながら、似たようなサービスを検討せざるを得なくなる。どの業界も人ごとではない。ユーザーからLINEで怒りのスタンプが送られ、お客様相談室の担当者が真剣にチャットでおわびする――。そんな未来がジョークではすまされない時代が来つつある。
(アジャイルメディア・ネットワーク取締役)