「エアコン隠し」は厳禁 床暖房にも熱ロスの弱点
冬に備える家づくり 2015-2016(3)
「美に用は無縁のもの。家の中で最も有用な場所はトイレである」。こうした「レス・イズ・モア」の美学を前にしては、空調や給湯といった忌まわしい設備などに、居場所などあろうはずもなかった。その美学が生み出す「悲劇」を見ていこう。
エアコンは醜い、されど隠すべからず
隠されやすい設備の筆頭は、かの「醜い」エアコンだ。特に和室では、壁にガラリを設けて屋内機を押し込んでしまったケースをよく見かける(図1)。
見た目はスッキリであるが、これで暖房をすると空気は下に吹き出せず、暖かい(軽い)空気が上に滞留するだけで、全く暖まらない(図2)。暖房をきちんと行うためには、エアコンの屋内機は「飛び出さざるを得ない」のである。
さらに屋外機。これまた見栄えがせず、風も音も出すので嫌われるが、それもこれもヒートポンプが外気の熱を集めているからだ。この屋外機こそ、ヒートポンプの「心臓」であるコンプレッサーを内蔵し、外気と熱をやりとりする主役。見苦しいからと囲っては、夏の排熱・冬の集熱に必要な空気の流れを妨げてしまい、エネルギー効率が大幅に低下する。
なお、1 台の屋外機に複数の屋内機をぶら下げる「マルチエアコン」は、一般に形式も古く割高、おまけにエネルギー効率も低い。「屋外機を1つにしたい」からと安易に採用しないことをお勧めする。
床暖房ラブのホンネは「設備を隠せる」
エアコンとは対照的に、設計者に好まれる暖房といえば「床暖房」をおいて他にない。音や風を起こさず、温度ムラのない良質な温熱環境をつくることができる。
しかし設計者にとって最大の魅力は、「設備を完全に隠蔽できる」ことに尽きる。モダンリビングの必須アイテムとも言えるこの床暖房、実は弱点をいくつも持っている。
まず、加熱能力が小さいために立ち上がりに時間がかかる。床表面温度を上げれば加熱量を増やせるが、身体に直接触れる床暖房では低温やけどのリスクがあるので限界がある(図3)。
結局、床暖房の加熱能力は1m2(平方メートル)当たり100~200W程度。放熱面の敷設率(通常60~70%)を考えると、10畳(18.6m2)では2000W以下の加熱量しかない。強制対流方式のエアコンやガス・石油ファンヒーターが6000W程度であることと比べると、3分の1程度の能力しかないことになる。
さらに、床暖房は放熱パネル下面や配管からの熱ロスが大きく、また熱源効率に限界があり、エネルギー効率が低くなりがちである。床暖房で省エネするには、高効率な熱源や放熱パネルの採用・床下や配管の断熱強化など、注意深い設計と施工が不可欠となる(図4、図5)。
寡黙な電気ヒーターのエネルギー効率は「最悪」
電気ヒーター式の「電気床暖房」や「電気温水器」はとても魅力的だ。メンテナンスフリーで抜群に長寿命、しかも安価。設置は電線をつなぐだけ、燃焼式やヒートポンプ式のように外気に接する必要もない。完全に無音・無臭で、どこにでも隠しておける…。
やたらと好都合なのだが、実は貴重な電気エネルギーをただ黙々とジュール熱に変換してしまうため、エネルギー効率は最悪だ。電気で暖房・給湯をする場合には、空気熱を集めて効率を稼ぐヒートポンプ式を絶対に選ぶことをお勧めする。
全ての細部が必然
ある有名自動車メーカーのモットーは、「全ての細部が必然」。設備の形態は物理の必然に真正面から向き合った結果の産物。なぜ「見える」のか、「出っ張っている」のか、「音がする」のか。設備のディテールを知ることが、真のエコ設計への近道なのだ。
(書籍『エコハウスのウソ[増補改訂版]』の記事を再構成)