利益率3割 日本企業が失ったアップル大もうけのカギ
北山一真 プリベクト代表取締役
革新的な製品である「iPhone」が、莫大な売り上げをAppleにもたらしていることは理解できる。しかし、30%もの営業利益率を実現している理由は、あまり知られていない。
一般に、販売台数が多いからといって、必ずしも利益率が高いとは限らない。Appleには、もうかるための仕組みがある。そして、それは1970~1980年代の古き良き日本のメーカーが実践していた設計手法と極めて似ている。
現在、日本のメーカーは、「技術力はあるのにもうからない」「コンペで負ける」といった課題を抱えている。そうした状況を打破するためにも、Appleのもうかる仕組みを学び、自社に取り入れる必要がある。
製造業は「固定費回収モデル」
そもそも、製造業において「もうける」とはどういうことなのか。まずは、そこから解説しよう。下の図は、製造業のコスト構造を模式化したものである。
製造段階以降に部品費などの変動費(生産量に応じて増える費用)が発生するのに対し、製造段階以前は研究費/設計費/設備費/金型費などの固定費(生産量と関係なく一定の費用)が発生する。そう考えると、製造段階よりもかなり上流で多額の固定費を投資していることになる。
そして、時間をかけてさまざまな製品でこの固定費を回収し、もうけを得ている。言い換えれば、製造業は「固定費回収モデル」である。
設計者は固定費を見よ
では、変動費と固定費はどちらが「もうかる」のだろうか。購入品と保有設備ではどちらがもうけを生み出しているのか。下の図を見てほしい。
基本的に、材料や部品といった購入品(変動費)はもうからないと考えた方がよいだろう。顧客から頂いたお金(売り上げ)を購入品の代金として外部に支払うので、ほとんど手元に残らないのだ。ただし、変動費にはリスクが小さいという側面もある。売れなかったら、買わなければいいからである。
すなわち、もうけは「固定費からしか生まれない」と言っても過言ではない。設備/治具/技術をどれだけ有効活用し、使い倒せるかにかかっている。同じものを使えば使うほどもうけとなるのだ。ただし、固定費は製品が売れるかどうかにかかわらず、先行的に投資しなければならないのでリスクは大きい。
設計で重要なポイントは、ここからだ。製造業は、前述の通り「固定費回収モデル」であり、もうけが生まれる源泉は固定費だけである。そう考えると、設計者は固定費をマネジメントしなければならない。
固定費マネジメントとは、設備/治具/技術を変えないようにすることで、固定費の増加を防ぐ取り組みである。ところが、多くの設計者は実際には変動費ばかりを見ている。製品の価値を高めるには、性能を高めたり新技術を採用したりする必要があるので、変動費に意識が向かうこと自体は仕方ない。
問題は、その過程で固定費にも注意を払っているかどうかである。どうすれば設備改修が不要になるか、新しい治具を造らずに済むか、あるいは現場の作業が増えないかといったことを常に意識する必要がある。製品価値向上と固定費抑制の両立こそが設計に求められている。
「垂直統合はもうからない」のウソ
設計者が固定費マネジメントを実践することの重要性を確認した上で、Appleの話に戻ろう。
2007年、iPhoneのApple、「Wii」の任天堂、液晶テレビの米Vizioが高業績で話題になっていた。いずれも、自社工場を持たないファブレスメーカーだ。これによって、「ファブレスはもうかる。日本の電機メーカーは工場を持つ垂直統合だからもうからない」という認識が広がった。それを受けて、自社工場を手放した企業も多く目にした。
垂直統合はもうからない。工場を持つともうからない――。果たして本当だろうか。いや、ウソである。垂直統合だからこそもうかる。工場を持つからもうかるのだ。
実際には、Appleは電機メーカーの中で最も垂直統合が進んでいる。販売店は自前のApple Storeを持ち、OS(基本ソフト)も独自開発、そして故Steve Jobs氏自らがパッケージングの特許を8件も発明している。「iTunes」のような配信サービスも運営している。
一方の日本メーカーといえば、販売は家電量販店任せ、OSは米Googleの「Android(アンドロイド)」や米Microsoftの「Windows」を使用し、サービス領域にもそれほど力を入れていない。明らかな差がある。
「そんなことを言っても、Appleは自社工場を持っていないではないか」という反論が来そうだ。確かに、同社が工場を保有していないのは事実である。
しかし、最もお金が掛かる切削加工機やレーザー加工機についてはAppleが自ら投資し、製造委託先の台湾Hon Hai Precision Industry(鴻海)などに貸与しているのだ。つまり、Appleは工場自体を持っていないかもしれないが、もうけを生み出す固定費の部分に投資し、リスクを負っているのである。そして、変動費の部分だけを外注しているわけだ。
設備に投資しているなら、その固定費は使い倒さなければならない。Appleはこの固定費マネジメントに秀でている。
7年も変わっていない画面の幅
iPhoneは、2007年の初代から2011年の「iPhone 4S」まで画面サイズが全く変わらず3.5型で統一されてきた。そして、2012年の「iPhone 5」で初めて画面サイズが4型になった。ただし、幅の寸法は変えておらず、縦に伸ばしただけだった。画面の幅だけを見たら、7年も変更を加えていない。その他、ホームボタンのサイズや音量ボタンの位置なども同じままである。
もちろん、そうした設計になっているのは、使い勝手や携帯性などによるところが大きいだろう。だが、高額な加工機に投資しているからこそ、設備/治具/技術をできるだけ変えずに済むような制約を設け、その中で付加価値を高めるための設計をしていることが分かる。これこそが、Appleが莫大な利益をたたき出している秘訣である。
4年間で55機種も設計
一方、ある日本のメーカー(以下、X社)を見てみよう。下の図は、X社が2011年以降に発売したスマートフォンの画面サイズのリストである。
これによれば、X社は2011~2014年の4年間で、何と55機種、19種類の画面サイズを設計している。そのうち半数を超える10種類の画面サイズが1機種にしか使われていない状況だった。
本当に、これほど多様な画面サイズが必要だったのか、たった4年間で55機種も開発し筐体のサイズもバラバラである必要があったのか――。これでは、固定費マネジメントができるはずはなく、もうかる製品にはならないだろう。画面サイズの種類が際限なく増えたことについて、X社の技術者にも言い分はあると思う。しかし、固定費マネジメントの重要性に異存はないはずだ。
どう造られているか知らない技術者
それでは、設計者の目線で固定費マネジメントを実践するにはどうすればよいのだろうか。固定費を増やさないようにする上で最も重要なポイントは、設計者が自分の書いた図面について、「工程フロー」を書けるようにすることである。
昨今は、自分で図面を書いたモノが実際にどのように造られているのか知らない技術者も少なくない。設計業務がシステム化したことで、設計者はデータのやり取りだけで済ませ、現場には出向かなくなった。だが、製造現場のことを知らずして、固定費マネジメントなどできるわけがない。自分の書いた図面の工程フローを書けなければ、固定費マネジメントは不可能である。そんな技術者は、「ボスの位置をどれぐらい変えたら、汎用治具で組み立てられなくなるのか」「形状をどれぐらい複雑にしたら、500トンのプレス機が使えなくなって、800トンのプレス機になってしまうのか」といったことを想像できないだろう。
Appleは、サプライヤーの工場を必ず徹底的に調査・観察する。どのような作業でどのような制約があるのか徹底的に洗い出す。それは、トヨタ自動車がTPS(Toyota Production System)指導と称してティア1の工程を丸裸にする手法と非常によく似ている。そして、Appleの技術者は工程のことを熟知した上で、製品を設計するのだ。
そのために、工場にある設備/治工具のラインアップや、それぞれの加工範囲(Min-Max)などをリストにして、設計者と工場が共有できるようになっている。日本の技術者は、工場や工程にそこまで興味を持っているだろうか。実は、1970~1980年代の日本の技術者は、今のAppleの技術者とそっくりのやり方をしていた。
「怖いおっちゃんの顔」がチラつく
かつて、日本のメーカーでは、ボスの位置や板厚、取り付け部の隅Rを勝手に変更すると、即座に製造現場のベテランから電話が掛かってきて、現場に呼び出され、怒鳴られていた。設計変更しようものなら、恐る恐る現場に出向いて、ご機嫌を伺いながら変更を依頼していた。そうして現場のことを理解していったのだ。
そうすると、常に「現場の怖いおっちゃんの顔」を思い浮かべて図面を書くようになる。顧客の要望があるから新しいことをしなければならない。しかし、「怖いおっちゃんの顔」もチラつくので、むやみやたらに変更できない。顧客とおっちゃんの板挟みになりながら、良いモノ、もうかるモノを生み出していったのだ。
この「怖いおっちゃんの顔」こそが固定費マネジメントなのである。「どの形状を変えると現場の段取りが大変になるのか」「どの寸法を変えると治具まで変えなければならないのか」を考えて、現場の手数を増やさずに顧客のわがままな要求を実現していく必要がある。
「設計」と「原価」がバラバラ
しかし、前述の通り21世紀になって設計と製造の関わり方は変わってしまった。関係は疎遠になり、若手設計者は現場に足を運ぼうとせず、メールで済ませてしまう。とはいえ、「昔のように密なコミュニケーションが重要」と過去を礼賛しているだけでは始まらない。今の時代にあった「怖いおっちゃんの顔」を取り戻す必要がある。それを取り戻せて、初めて設計のあり方が大きく変わっていくのである。
筆者は、この20年余り、PDM(Product Data Management、製品データ管理)、3D-CAD、E-BOM、標準化、モジュラーデザイン(MD)、原価企画、VE(Value Engineering)などのテーマで設計改革を手掛けてきた。世の中には、こうした設計改革が思うように進まない企業も多い。「技術力はあるのにもうからない」「グローバル市場のコンペで勝てない」「考えない若手が増えて技術力が落ちている」といった不満をよく聞く。
これにはさまざまな原因があると思うが、技術力があるのにもうからないという問題に関しては、根本的な原因があると感じている。それは、「設計」と「原価」がバラバラになっていることだ。
「設計でコストの80%が決まる」。こんな言葉を1度は聞いたことがあるかも知れない。だが、実際には多くの企業で設計部門と原価部門がバラバラになっていないだろうか。設計部門が頑張れば、良い製品は生まれるかもしれない。しかし、設計部門と原価部門がバラバラの状態でもうかる製品など生まれるはずがない。そこで、筆者は「プロフィタブル・デザイン(Profitable Design)」(もうかる設計、利益獲得設計)を提唱したい。
グローバル競争がますます激化する中、強い設計に生まれ変わるため、競争力のある製品を生み出すため、そしてもうかる製品を生み出すためには、ナレッジ(知識)を中心に設計と原価を融合させる必要がある。プロフィタブル・デザインの実現に不可欠な"キーファクター"は二つ。一つは固定費マネジメント、そしてもう一つは「設計高度化」である。
大手SI企業のコンサルティング部門にて、製造業における大規模ERPプロジェクトに従事。経営管理・SCM・DWH・生産管理・購買管理・管理会計など幅広く業務改革やシステム導入を手がける。製造業向けコンサルティングファームにて、PLM・BOM・原価企画・ライフサイクルコスティングなど、設計開発領域の業務改革やシステム導入を手がける。管理会計の改革と技術領域の改革を融合したコンサルティングを手がけるために、プリベクトを設立。
[書籍「プロフィタブル・デザイン」から一部抜粋して再構成]