梅田 起業の街に 大阪市・阪急電鉄・関大が相次ぎ支援拠点、90社集積
大阪・梅田が起業間もないスタートアップ企業や新商品・新サービスを育む街になってきた。吸引力は産官学による手厚い支援だ。大阪市が再開発地区「うめきた」を拠点に支援事業を展開し、阪急電鉄などもサポート体制を整えた。7月31日には特許庁所管の独立行政法人が拠点を開設し、成長を後押しするインフラの充実も進む。ヒトが集まることで人脈が生まれ、事業に必要なカネを集めやすくなる好循環が出てきた。
梅田の活性化をけん引するのは、大阪市が2016年から始めたスタートアップ企業の育成プログラムだ。7月13日はベンチャーキャピタル(VC)約10社を梅田に招き、同プログラムに参画する経営者と1対1で面談する場を設定。冒頭のあいさつで、大阪市経済戦略局の吉川正晃理事は「このプログラムに参加した企業(計30社)の資金調達額が13億円を突破した」と成果を強調した。
同プログラムはうめきたの「グランフロント大阪」にある産学連携拠点「ナレッジキャピタル」の一角に設けた「大阪イノベーションハブ」を中心に活動する。うめきたを新産業創出の地にすることが市の狙いで、現在は3期生の10社が参画。業務を受託するトーマツベンチャーサポート(東京・千代田)がVCなどとの人脈作りを支援する。7月上旬には大企業とのマッチングイベントも開いた。
市の育成プログラム3期生のネクストイノベーションは、16年に梅田から北へ徒歩15分程度の豊崎で創業した。同社は生活習慣病などについてチャットアプリを使った遠隔医療を手掛けている。石井健一社長は「創業初期の企業の成長に欠かせない伴走者が集まる梅田は起業の最適地だと思う」と話す。
古地図やイベント情報などを現在の地図に重ね、イベント主催者などから利用料を得るネットサービスを展開するStroly(ストローリー、京都市)。同プログラムへの参加を通じてVC関係者とのパイプを築き、5月に1億4千万円を調達した。高橋真知社長は「以前は資金調達のために東京に行く必要があったが、今はVCが梅田まで足を運んでくれる」と支援の充実に感謝する。
7月31日には特許庁が所管する独立行政法人、工業所有権情報・研修館(INPIT=インピット)が近畿統括本部をグランフロント内に開設した。これまで東京に出向く必要があった知的財産の保護や活用を梅田で支援してもらえるようになる。
産学による支援の輪も広がっている。阪急電鉄は14年秋、梅田中心部の「阪急ファイブアネックスビル」内に、スタートアップ期の企業が格安で入居できる「インキュベーション(ふ化)オフィス」を開設。ロボット教室を展開する夢見る(堺市)など27社が入居する。
阪急電鉄が梅田での起業支援に乗り出したのは、同社の不動産賃貸面積のうち梅田地区が半分弱の約80万平方メートルを占めるため。大企業の東京移転が加速する中、「創業を支援し、企業を育てて将来のオフィスの需要の増加につなげたい」(同社の担当者)という。入居希望が多く、今年度中に個室スペースの拡張も検討する。
16年に開設した関西大学梅田キャンパス内にも支援拠点が誕生。「大学のキャリア教育は就職に限られており、起業も後押しする」(関大の担当者)のが狙いで、準備段階の起業家を対象にした相談会などを開いている。
産官学による支援体制が整い、本社や事業所を梅田に置く新興企業も増えてきた。トーマツベンチャーサポートによると、グランフロントに新興企業約30社が入居。これとは別に、グランフロント内のインキュベーションオフィスにも30社強が入る。阪急電鉄のオフィスも含めた3カ所だけで梅田に拠点を持つ企業はスタートアップ期から株式上場も見据える成長企業まで90社に上る。
■ブランド向上へ 本社を移す流れ
トーマツベンチャーサポート関西地区リーダーの権基哲氏は「成長軌道に乗ったベンチャーがブランド力のアップのためにグランフロントなど梅田の一等地に本社を移す流れも生まれている」と指摘。大阪府藤井寺市のマンションで2005年に創業したスマホアプリ開発のフェンリルは13年、グランフロントに本社を移した。スマホの普及に伴って業務用アプリの開発需要が急増し、15、16年にはオフィスを増床した。「グランフロントに本社を置いたことで、採用も有利になった」と柏木泰幸社長。18年3月期は売上高30億円を目指す。
07年に大阪市西区で創業し、飲食店への人材紹介業で成長を遂げたクックビズも12年に梅田中心部のオフィスに本社を移転。17年度に年間売上高20億円を見込み、今では梅田を代表する新興企業となった。
トーマツベンチャーサポートの権氏は「今後、梅田で成功したベンチャーが新たな起業家に投資する好循環が生まれれば、起業の街としてさらに活気づく」と期待する。
■特許の面接審査申請、すでに130件超
INPITの近畿統括本部は事前に予約すれば特許庁の審査官が東京から出張し、出願済みの特許について面接審査をする。これまで面接審査は東京の特許庁に行かなければ受けられなかった。
7月31日から8月上旬までの面接審査の申し込みは130件を超え、出足は順調だ。このほか企業OBの専門家らが中小企業の知的財産戦略の相談に応じる。中小企業が過去の技術情報などを調べられるように専用のパソコンを6台置いた。
2016年度の都道府県の知財総合支援窓口への相談件数は大阪府が4741件と全国首位。2位の神奈川県(4087件)や4位の東京都(3292件)を大幅に上回る。しかし16年の特許出願件数は東京都が13万455件と全国首位で突出し、大阪府は2位ながら都の4分の1の3万3069件しかない。知財への関心の高さをINPITが特許出願に結びつけられれば、中小企業の成長を促す可能性がある。
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