ノーベル経済学賞にティロール氏、産業組織論に貢献
【ロンドン=小滝麻理子】スウェーデンの王立科学アカデミーは13日、2014年のノーベル経済学賞を仏トゥールーズ第1大学のジャン・ティロール教授(61)に授与すると発表した。同アカデミーは「市場の力や規制についての分析」を授賞理由と発表。同氏の産業組織論や「規制の経済学」での研究を高く評価した。同氏は1953年のフランス生まれ。
経済学では1970年代まで、企業がどのような思惑でM&A(合併・買収)に踏み切るかなどを巡り、十分な分析がなされてこなかった。このような問いに対し、ゲーム理論などを活用して分析したのがティロール氏。80年代の著作「産業組織論」はこの分野の「古典」ともいえる存在となっている。東京大学の柳川範之教授は「ティロール氏は産業組織論にゲーム理論や情報の経済学の考えを取り入れ、理論的なフレームワークを一変させた」と話す。
今回、アカデミーが特に評価したのは「規制の経済学」での貢献。「規制をする側も情報を十分に持っていないことや利己的な行動をすること、規制によって企業が行動を変えることも視野に入れて理論を組み立てたことが大きな功績」(柳川氏)という。
大阪大学の安田洋祐准教授は「ゲーム理論を使った産業組織論をベースに、消費者の利益をどのように守るか、どういう競争政策、規制政策が望ましいかといったことを分析した学術上の貢献は大きい」と話す。欧州を中心に、実際の金融や通信分野での規制に大きな影響を与えており、リーマン・ショック後の銀行規制のあり方を巡る議論でも、ティロール氏の分析が注目を集めてきた。
日本との関係では、2013年に一橋大学がティロール氏に名誉博士号を授与。同大学の山内進学長は13日夜、ティロール氏が同大学の多くの研究者に影響を与えたとしたうえで、「この喜びを大学としても享受したい」との談話を発表した。