NTT、鬼門の北米に再挑戦 デル部門買収合意
医療用クラウドに的

NTTは28日、米デルからIT(情報技術)サービス部門を買収することで合意したと正式に発表した。デルが2009年に買収した旧米ペロー・システムズを中心とする関連3社のすべての株式をNTT子会社のNTTデータが取得する。取得額は30億5500万ドル(約3500億円)。NTTは海外事業の強化に向け、かつて苦杯をなめた「鬼門」の北米に再挑戦する。
一部費用は算定中としており、買収総額は膨らむ可能性がある。今夏の買収完了を目指す。NTTグループでは過去3番目の大型買収となる。
デルのITサービス部門は米国内に医療向けクラウドサービスなどで広範な顧客網を持つ。米ガートナーによると、14年の医療向けITサービス分野でシェア首位。米病院チェーンなど有力顧客に深く食い込み、「切り崩すのは容易ではない」(業界関係者)。
その中核となっているのは米大統領選に2度出馬した米実業家ロス・ペロー氏が創業した旧ペロー・システムズだ。海軍出身のペロー氏は米IBMを経て、前身となるITサービス企業を創業。米政府内に持つ人脈をつてに医療システムの受注に成功した。一度は米自動車大手ゼネラル・モーターズ傘下に入ったものの、再び独立。1988年にペロー・システムズを設立した。
一方、買収の主体となるNTTデータは北米進出に向けて、10年に同業の米キーンを買収した。米テキサス州交通局や米外食大手からの受注に成功したものの、北米の売上高は15年3月期で1752億円にとどまる。旧ペローが持つ安定した顧客網を追加し、成長を加速させたい考えだ。

NTTグループにとっても海外事業の強化は待ったなしだ。固定電話の落ち込みを補うと期待された光回線は伸び悩み、NTTドコモが手掛ける携帯電話もスマートフォンの成長は一巡した感がある。18年3月期までに海外売上高を現在より5割増やして年間220億ドルに引き上げるという目標を実現するには大型買収が不可欠と判断した。
そこに舞い込んだのがデルからの打診。15年11月だった。NTTグループ幹部は「まさか再びチャンスが来るとは思わなかった」と話す。実はNTTは09年にもペローの買収を検討したことがある。当時、北米での事業基盤が小さかったNTTはより小さいキーンの買収を選び、ペローを39億ドルで傘下に入れたのがデルだった。

デルは事業の主力をかつてのパソコンからサーバーなどITインフラに移すため、米ストレージ(外部記憶装置)大手EMCを約670億ドルで買収することを決めた。巨額の費用を賄うため、虎の子のペローまで売却リストに加え、売却先の候補としてNTTに目を付けた。
交渉は波乱の幕開けだった。「全く話にならない」。デルの示した条件にNTTグループ幹部は憤慨した。提示額は約50億ドル。「明らかなビーンボール」にも粘り強く交渉を重ねた。
当初は3月半ばの決着を目指した交渉が一度は時間切れ。NTTデータの岩本敏男社長が自ら渡米し、「延長戦」に持ち込んだ。交渉を担当したNTTデータの西畑一宏取締役は「世界最大市場の北米で存在感が高まれば、グローバルでの地位も上がる」と期待する。
事業の軸足を海外に移したいNTTにとって、ITの中心である北米には因縁がある。00年に子会社を通じて、インターネット提供の米ベリオを買収、携帯電話の米AT&Tワイヤレスへの出資を相次いで決めた。総額160億ドルに迫る大型買収は直後に目算が狂う。「ドットコム」ブームが終息。運営にも失敗し、両社は赤字を垂れ流し続けて後始末に追われた。
北米への再挑戦。ペローが持つ医療分野の安定した顧客基盤はNTT幹部の目に「安心料」と映ったはずだ。ただ、買収後の相乗効果は見えず、課題も多い。リターンマッチを北米での飛躍につなげるにはグループの総力を挙げた取り組みが欠かせない。(杉本貴司、戸田健太郎)
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