上場しないメルカリ 注目集めるユニコーンモデル
ネットイヤーグループ社長 石黒不二代
非上場でありながら千億円規模の企業価値があるベンチャー企業群「ユニコーン」。有名なところでは、米配車アプリのウーバーテクノロジーズや民泊仲介サービスを運営する米エアビーアンドビーなどがある。
世界には200社近くのユニコーンがあり、その半分が米国企業と言われている。かつてユニコーンだったグーグル(現アルファベット)やフェイスブックが上場後も投資家から高い評価を得ていることもあり、ベンチャー企業が上場するまでの間に成長するトレンドが続いている。
現在、残念ながら日本にはユニコーンが1社しかない。フリーマーケットアプリのメルカリだ。私は同社のサンフランシスコオフィスを訪ねた。
リユース(中古品)市場を席巻しているメルカリは4年前に創業されたばかりだ。創業の翌年には米国版をスタートさせている。同社のアプリはすでに6千万件以上ダウンロードされている。米国でのダウンロード数ランキングで総合3位になったこともある。
業績も好調だ。2016年6月期の売上高は122億円(15年6月期は42億円)、営業損益は15年6月期に11億円の赤字だったが、16年6月期には32億円の黒字に転換している。資金調達額も日本のIT(情報技術)企業の中では群を抜く126億円に達した。
これだけの業績をあげていればすぐにでも上場できそうだ。しかし、創業者で代表取締役の山田進太郎氏の考え方は違っている。彼は上場企業になることよりも、世界で成功することに重きを置いているのだ。
日本では卓越した業績を達成しているが、それだけでは世界で成功する条件にはならない。世界中の人に認められるには米国で勝たなければならない。米国でうまくいけば、欧州が見えてくる。実際、メルカリは今年、英国進出を果たした。
上場すると不特定多数の投資家が株主になるため、配当原資や株価の裏付けとなる利益をあげ続ける必要がある。だが、世界で成功するには、短期的には利益を減らす経営判断をする場面があるかもしれない。非上場なら、そうした判断を受け入れてくれる投資家だけが株主になる。こうした考え方は、メルカリだけでなく、海外のユニコーンにも共通している。
メルカリの山田氏は根っからの起業家で、大学卒業後インターネットサービスの「ウノウ」を設立した。これが米国最大のソーシャルゲーム会社のジンガに買収され、メルカリ創業の原資を得るきっかけとなった。
エンジニアでもある山田氏は、絶頂期のジンガで取締役を務め、米国企業のサービスのプロデュースや運営の仕方、組織の組成や採用と目標管理などのマネジメントを学んだ。山田氏以外の2人の取締役もソーシャルゲームの会社を経営していた元エンジニアだ。
現在、メルカリは法令違反の疑いのある商品の出品が相次いでいることへの対策に追われている。だが、経営陣はデータをもとに、計画の立案・実行・検証・再実行(PDCA)を繰り返しながら企業の価値を高める経験を積んでいる。解決に向かうだろう。
一方、日本の最近の新規上場(IPO)の傾向を見ると、米国と正反対のことが起こっている。16年にIPOした企業は83社。そのうち、公開価格で計算した時価総額が50億円に達していなかった企業が46社もある。
小規模の企業が四半期ごとに決算を発表し、投資家や株主に短期的な利益を約束している。これでは世界で成功するのは難しいのではないか。
米国では、ユニコーンの増加が上場へのハードルを高くしているとの懸念もある。だが、小粒なまま上場した企業よりも、起業家が自由に経営しやすいユニコーンの方が中長期の成長を実現しやすいと思う。
[日経産業新聞2017年5月18日付]
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