楽天、尾を引く「不当表示」 問われる最大手の覚悟
通常価格などの「元値」をつり上げ、割引率を高く見せかける不当な二重価格が問題となった日本一セール(11月3~7日)から1カ月足らず。11月30日、国内最大のEC(電子商取引)モール「楽天市場」で100時間限定の大セール、大感謝祭が始まった。
今回のセールで楽天は、前回の反省を踏まえ、セール対象品のすべてにおいて、元値を載せず販売価格のみを示す「ワンプライス」表示を必須とした。ただし、これは4日間にわたるセール対象の約40万点に限った話。1億5000万点以上もあるほかの商品は、従来通り店舗が二重価格表示を選択できる。
そして、日本一セール時の不当表示問題も終わったわけではない。購入者のあいだでは、いまだに尾を引いている。
日本一セールランキング1位の「みかん」に不当疑惑
「77%OFFにつられて買ってはみたものの、おいしくなかった。残念でした(11月30日)」「半分以上みかんが割れていて、箱は果汁でぬれていました(同29日)」「2個腐りかけ&4個ほど傷がありましたし、甘くもなく残念な感じでした(同28日)」「今日届きました。本当にひどい商品です。どこが77%割引なんですか?(同27日)」……。
日本一セールで人気を博したある商品のレビュー欄。今も、届いた商品を見て落胆した購入者の声が次々と投稿されている。
この商品は日本一セールで販売された「みかん約5キロ」で、価格は「当店通常価格」の6800円から77%オフの1562円。セール期間中、楽天市場の売り上げランキングで1位を記録するなど売れに売れ、テレビなどメディアにも取り上げられた。あるスポーツ紙はこの店舗の声を「セール直後の1時間半だけで、約1000万円ぐらいの売り上げでした」と引用している。
ところが日本一セール終了後も同商品は1680円で販売され続けたため、元値の妥当性について購入者から疑問の声が噴出。「通常価格1万2000円の抹茶シュークリーム」などが問題視されると、みかんの販売ページはひっそりと削除された。次いで11月14日、同店は「改装中」となり、現在も販売を停止している(12月2日時点)。
この商品は楽天の審査を経た「公式」なセール品。不当な二重価格表示があったと楽天が公表した件数には含まれていない。その後のてん末は報道で話題になったこともない。日本一セールの象徴ともいえる商品に何があったのか。同店を運営する会社の所在地(東京・新宿区)へと赴いた。
応対したのは運営会社の社長。SIMカードなしの携帯電話「白ロム」を販売するECサイトなども運営している。「レビューが荒れている。不当表示があったのではないか」と聞くと、社長はこう話した。
店舗は疑惑を否定、レビューは「いたずら」
「風評被害に遭って困っている。(不当な)二重価格は事実無根。いたずら目的で悪いレビューを書く人もいる。わざわざ購入して、モノが届いていないのに届いたモノが悪いと書き込み、キャンセルするといういたずらに迷惑している」
「(販売停止は)あまりに注文があり、対応しきれないため。楽天と相談した結果、いったん改装中という形にして、配送を優先することにした。物量の問題であり、(二重価格で)処分を受けたわけではない」
通常価格として表示していた6800円について根拠はあるのか。販売実績はあったのか。問うと社長はこう答えた。「もちろん販売していた。6800円どころか、7200円、果ては1万円くらいでも買う人はいる」。証拠を見たいと頼むと、「メディアの取材は一切断っている。取材に協力する気はないし、これ以上、騒ぎ立てるのはやめてほしい」とし、得ることはできなかった。
この件について楽天に問い合わせると、「個別店舗の事案は回答できない。処分があったかどうかも答えられない。日本一セールの購入者でキャンセルを希望する方については、楽天側でキャンセルを受け付け、返金処理をしている」との答え。楽天関係者によると「ランキング1位になったみかんは、購入者からのクレームが最も多い商品の1つ。多くのキャンセルが出ている」という。
店舗側が主張するいたずら目的のレビューについては、「キャンセルをすれば当該レビューは自動的に消える」(同)。「キャンセルするいたずら」であればレビューは残っていないはず。自腹で購入してまで、いたずら目的の書き込みをするユーザーがいるとも考えにくい。日本一セールの象徴となったこの商品の疑惑は深まるばかりだ。
「たまたま」露見した不当表示
11月11日、三木谷浩史社長自らが陳謝した日本一セールの不当表示に関する記者会見。ここで楽天は、楽天の審査を経ずに店舗が勝手に便乗して行った「勝手セール」品のうち、17店舗、1045商品について不当な二重価格表示があったと公表した。
一方、公式セール品については、抹茶シュークリームに加え、「通常価格1万7310円のスルメイカ10枚」「同1万1125円の大根5キロ」の3商品について言及。いずれも「元値の妥当性を判断することが難しい」という理由で、会見時点では継続調査とした。これに納得がいかない記者が楽天役員に詰め寄るシーンもあった。
だが、この「17店舗、1045商品」という数字や個別商品をあげつらうことに、さして意味はない。これらは、たまたま露見した「氷山の一角」にすぎないからだ。
今回の不当表示問題は、抹茶シュークリームや「通常価格43万3915円のiPhone」など、誰がどう見ても元値が異常に高かった一部の商品に端を発する。そうした商品をたまたま見つけたユーザーがツイッターや掲示板などで報告し合い、それを見たネットメディアが記事にし、さらにテレビや新聞などが追随したにすぎない。
一方、楽天が公表した「17店舗、1045商品」も、セール期間中の全商品を対象とした調査結果ではない。セール直前に元値が5%以上引き上げられ、かつ割引率が50%以上の商品を機械的に割り出しただけ。セール時に新規に元値が登録された商品や、割引率が50%未満の商品は調査対象から除外されている。前出のみかんは、前者にあたり該当しない。
9月の「優勝セール」時も
さらにいえば、元値が異常に高いかどうかと悪質かどうかは別の問題だ。露骨に高い元値を示すほど、購入する消費者は少なくなる。実際、シュークリームやiPhoneの購入者はゼロ。話題にはなったが、被害は少なかった。消費者がだまされやすい微妙なケースであるほど、悪質性は高いといえる。そうした商品はどれほどあったのか。
そもそも楽天における不当表示疑惑は今に始まった話ではない。楽天は9月の球団リーグ優勝時も日本一セールとほぼ同じ内容の「優勝セール」を開催している。話題にならなかったが、この時も不当表示が疑われるセール品が多数、存在していた。
例えば、希望小売価格4350円の「長野県産 サンつがる 小玉3個入り」というりんごが、77%オフの1000円で売られていた。この店舗は、セール前から同じりんごの「6個入り」を1980円で販売しており、その商品の「当店通常価格」は2980円。双方の元値を比較すると、優勝セール品が1個当たり1450円で通常品が同496円と乖離(かいり)が大きい。
別の店舗では、優勝セール前に9350円で販売していた折り畳み自転車を、優勝セール時に「当店通常価格4万655円、優勝記念特価8980円」としていた。この店舗は「ヤフー!ショッピング」にも出店しており、ヤフー支店では同じ商品を「販売価格1万6800円、セール価格9380円」の表示で販売していた。
通常時から不当表示が横行か
こうした例は枚挙にいとまがない。さらに楽天全体のセール時ではない通常時でも、不当表示とみられるケースを多数、見つけることができた。
「イタリーブランド」「天然ダイヤ12石など使用」「高級腕時計」などとうたわれた腕時計の販売ページ。「当店通常販売価格」26万2500円のモデルは、「今だけ!95%オフ」の1万1111円で販売されていた。ほかのモデルも似たような値付けで、通常販売価格はおおむね20万円を超えていた。
このブランドを調べると、国内「総販売元」の公式オンラインストアに行き着く。ここで販売されている同ブランドの腕時計の価格は、おおむね1万6800円。高くとも2万円台で、数十万円という元値の根拠は薄弱だ。
このブランドを扱う店舗は複数あり、別の知られていないブランドでも同様の事例は多数あった。腕時計に加え、ジュエリーや化粧品など「高級品」を強調するような商品は、通常時から大幅な値引き率をうたう傾向が強い。ただし、これは楽天市場に限ったことではない。
楽天に課せられた社会的責任
ほかのECモールや独立系ECサイトなど、ネット上のあらゆる場所で、不当表示が疑われるケースが横行している。ネットだけではない。ディスカウントストアや露店など、現実世界でも昔からよくある話だった。それが、今回、たまたま楽天市場で目立っただけなのだ。
「みんなが当たり前に(不当表示を)やっていた」(腕時計販売のECサイト)、「二重価格は『スピード違反』と似ているという認識でいた」(楽天関係者)……。匿名を前提に話を聞けば、いかに日本全体で不当な二重価格表示が野放しになっていたかがよく分かる。
だが、だからといって、楽天が許されるわけではない。国内最大の流通総額を誇る楽天は、国内ECの頂点であり代表。プロ野球球団も持ち、日本一にもなった。世間の見る目はその辺の露店とは違う。楽天の社会的責任は大きい。
さらに楽天は、年に数回の大規模セールで大きく業績を伸ばしている。今年9月の流通総額は、優勝セールが寄与し、前年同月比42%増の約1426億円を記録した。日本一セールがあった11月はこれを大幅に上回るとみられる。このセール特需に便乗した不当な行為を、その辺の露店の不当表示と並べて論じるべきではない。
「百のおわびよりも、明快かつ徹底した改善」
日本一セールでは、目玉のタイムセール商品として「2万4564円のハンディカム」や「4万2780円のオメガ」、「49万9100円のプリウス」などが並び、いずれも売り出し直後の1秒以内に「完売」となった。この目玉につられて楽天市場を訪れた消費者は、「手ぶらでは帰りたくない」と思い、何とかお得な商品を手に入れようとほかのセール品を物色しようとする。この消費者心理を突いて、不当に安く見せかけ、ひともうけする行為は、消費者保護の観点からも許されない。
この、古くて新しい、そして根深く広範囲に広がる問題に対して、楽天はどう向き合うのか。楽天市場事業を統括する高橋理人(まさと)常務執行役員が取材に応じた。
「(不当表示について)これまでも対策はしていたが、甘かったといわれればその通り。改めて根源の深さ・広さを悩ましく感じています。ただ、楽天が世の中のすう勢と同じ基準で進んではいけない。圧倒的に安心安全な場をどう築いていくのか。真面目に取り組んでいる店舗さんや、楽天イーグルスの感動に泥を塗るような輩は、断固として排除していく。百のおわびよりも、明快かつ徹底した改善で、我々の覚悟を示していきたい」
楽天市場の責任者は甘かった過去を認め、反省し、前に進む覚悟を行動で示すと語った。「行動」は、どこまで進んだのか。
増える「改装中」、一部店舗「粛正が始まった」
高橋常務執行役員も「個別事例については答えられない」と公式見解を崩さない。ただし、11日のおわび会見の時点で、1カ月の販売停止処分が下った17店舗のページは「改装中」となり、運営会社と連絡先が記された簡素な表示になっている。これが、個別店舗についての楽天の見解を知る、1つの目安となる。
みかん、りんご、折り畳み自転車……。取材時に指摘した幾つかの商品について、高橋常務執行役員は「把握していないが早急に事実関係を調査する」とした。現在、それら店舗のページはいずれも改装中となっており、販売が止まっている。調査中の段階だとしても、改装中が長引けば店舗にとっては「販売停止処分」と同等だ。
楽天内部でも、独自調査が進む。11日のおわび会見以降に設けた「二重価格に関するお客様専用問い合わせ窓口」には、約4300件(11月26日時点)の連絡があった。うち、キャンセルを望む連絡は約750件。楽天は不当かどうかの判断を待たずに、現金、またはポイントでの返金に応じている。そのうえで、一つひとつ、元値に根拠があったかどうかの検証を進めているという。
その結果についても楽天は明らかにしないが、改装中の店舗が増えているのは事実。一部店舗からは「粛正が始まった」との声も聞こえてくる。
「大感謝祭」セールは「ワンプライス」を徹底
今後の不当な二重価格対策も一気に進めた。11月30日の大感謝祭セール開始時から、高橋常務執行役員いわく「根深く生息する二重価格を根こそぎ表にさらす荒療治」とする大きな制度変更が実施されている。
今回の大感謝祭セールでは、冒頭にあるようセール品に限りワンプライス表示を必須とした。新制度では、それ以外のすべての通常品について、元値の表示を「当店通常価格」と「メーカー希望小売価格」のみに限定。前者は「直近2週間以内にその元値で販売していた実績」などを必須とし、後者は証拠提出を求めることにした。新規の商品登録の場合は、そもそも二重価格を許可しない。
根拠なきものは、ワンプライス表示を徹底する――。その効果はすでに随所に現れている。
腕時計やジュエリーなど、通常時から大幅な割引率をうたっていた商品では、特にワンプライス表示が進んでいる。例えば、前述した店舗も含む複数の腕時計販売店が、二重価格を改め、ワンプライス表示にしていた。
20台限定の「ルンバ」、じつは1台
セールでも、ワンプライス表示に加え、あらゆる対策を講じた。例えば、楽天の審査を通過した公式のセール品以外、「大感謝祭」「感謝価格」といったワードの使用を認めていない。セールの企画名などを利用した非公式なセール品の排除が目的だ。さらに、すべての公式セール品の販売ページで、公式であることを示す小さなバナーを掲載、審査を経たものであることを明確にした。
ユーザーが大挙して群がる、目玉のタイムセール商品でも改善があった。前回の日本一セールでは、「限定20台」と表記されていた掃除機「ルンバ」が、じつは1台しか販売されていなかった。この店舗は現在、改装中で、販売を停止している。
こうした「在庫表示」の相違がないよう、楽天は事前確認を徹底。セール開始時以降、店舗側で在庫数を減らす処理があった場合はアラート(警告)が出るようにした。目玉のタイムセール商品では、販売開始と同時に瞬時に在庫がなくなるため、セール参加者からの不満も多かった。そのため、自動車や高級腕時計など一部商品では、先着ではなく抽選方式を採用。転売業者などによる買い占めを阻止する防御策も講じた。
短期間での改善としては過去最大規模。「楽天社員は、あの件以来、不眠不休で対策を続けてきた。みんな死ぬ気でやっている」。高橋常務執行役員はそう話し、続ける。
「今回の逆風は実は神風だったようにも思えます。打つ手が当たったり奇跡のイーグルス優勝があったりと、今年の勢いはとんでもなかった。調子づいて我を忘れてしまう前に、いま本当にしなければならないことに気づかされた。私も社員も、改めて店舗との関係、ユーザーとの関係を深く考えさせられた。だから皮肉ではなく、私は今回の一連の騒動に本当に感謝しています」
「試行錯誤が続く、と覚悟」
とはいえ、不当表示の根絶への道は険しい。元値をシステム的に表示できないようにしても、商品タイトルに「奇跡の90%オフ!」などと入れ込むことは可能。実際、12月に入ってからも、そうした事例をいくつか確認できる。通常価格の販売実績を作るために、高い価格を設定したダミーの販売ページを用意し、周到に自分で購入する店舗も現れるかもしれない。約4万2000店もの種々雑多なEC業者が軒を連ねる楽天市場だけに、店子(たなこ)のコントロールは容易でない。
それでも高橋常務執行役員は、「始まったばかり。試行錯誤が続く、と覚悟している」とする。この正念場を乗り越えれば、抜きんでてクリーンな「プレミアムモール」としてのブランドを確立することができる。楽天はその一歩を踏み出した。
(電子報道部 井上理)