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「世界最先端IT国家へ」政府戦略に対する業界の本音

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2020年までの政府のIT(情報技術)政策の指針となる新戦略が閣議決定された。企業などが保有する膨大なデータ「ビッグデータ」の活用や公共データの民間開放、農業や医療分野へのIT導入など、最新トレンドがそっくり盛り込まれた。IT業界は「時宜を得たもの。我々IT企業もその実現に尽力したい」(富士通の山本正已社長)と歓迎する。しかし懸念がないかといえばウソになる。IT業界の期待と不安を探った。

反省を踏まえ政府CIOが司令塔に

新IT戦略の正式名称は「世界最先端IT国家創造宣言」。20年までに「世界最高水準のIT利活用社会を実現する」ことを目標にした。安倍晋三首相の経済政策であるアベノミクスの「第3の矢」にあたる成長戦略に組み込まれ、安倍首相も「ITは成長戦略のコアであり、世界の後じんを拝してはならない」と意気込む。

政府がIT戦略本部を立ち上げ「5年以内に世界最先端のIT国家になる」と宣言したのは01年。だが実際はまるで逆となった。先進国にも途上国にも追い抜かれ、「多くの国の後じんを拝している」のが実情だ。

なぜ失敗したのか。新IT戦略には従来戦略の問題点と反省がつづられている。

IT活用は名目だけで、利用者ニーズを十分把握せず、組織を超えた業務改革を行わなかった。このため、ITの利便性や効率性が発揮できなかった。各省がバラバラにIT投資、施策を推進し、重複投資や施策効果が発揮できない状況を生み出した――などだ。

新IT戦略はこうした反省を踏まえ、政府CIO(最高情報責任者)が司令塔となり、政府全体のIT政策を推進する。CIOの遠藤紘一氏はリコー出身で、民主党政権だった昨年8月に任命されたが、これまで法的な位置づけがなかった。6月4日に「内閣情報通信政策監」というポストを新設し、遠藤氏を任命。ようやく手腕を発揮できる体制になった。

新戦略のメニューをみると、総花感はあるが旬のキーワードがずらりと並ぶ。

公共データ開放は、政府や自治体が保有するデータをネットで公開し、民間が使えるようにすることで、新ビジネスの創出を促す取り組みだ。

行政情報は「宝の山」(経済産業省)。飲食店の開業・廃業、道路工事の実施状況など、民間が入手しようにもできない情報が集まる。公共データを活用すれば、例えばカーナビゲーションシステムで常に最新のレストラン情報を表示でき、工事現場を迂回(うかい)した最短ルート案内も可能になる。

 政府は昨年7月「電子行政オープンデータ戦略」を策定。著作権の取り扱いルール作成や、省庁ごとにバラバラなデータ形式の標準化などを通じ、政府自らデータを積極公開することを決めた。だがその歩みは遅く、専用サイトで膨大な行政データを公開している米国など先進国に大きく水をあけられている。

IT大手首脳は「もろ手を挙げて賛成」、ただ…

ビッグデータはクラウドと並び、IT各社がもっとも力を入れている分野だ。SNS(交流サイト)の書き込みなど非定型の大量データ解析で、日本企業は国内だけでなくアジアでも強みを発揮できる位置にいる。個人データ利用に関する国際ルールづくりに政府が動くことは企業にとって援軍になるだろう。

農業、医療は企業や行政を相手にした既存のIT需要の伸びが見込めないなか、開拓余地が大きい領域として注目を集める。クラウドを使った営農システムやセンサーを使った農作物の生育管理などが続々と登場している。

ITを活用した社会インフラの維持管理は、発電設備やプラント、橋梁など、重工業が強い日本にとって有望な分野だ。設備に無数のセンサーを取り付け、収集したデータを無線で配信する機器間通信は「マシン・ツー・マシン(M2M)」と呼ばれる。ビッグデータ解析技術を組み合わせれば、故障の前兆を検知し、重大事故を未然に防げる。

ここまではIT各社の経営戦略ともぴたりと符合しており、IT大手首脳は「もろ手を挙げて賛成」とする。だが問題はこの先だ。

「18年度までに現在の情報システム数(約1500)を半数近くまで削減。21年度をめどに原則すべてのシステムをクラウド化し、運用コストの3割減をめざす」――。あるIT大手幹部は、行政システム改革に具体的な数値目標が盛り込まれたことに危機感を隠さない。システム数が半減すれば、自社がシステム構築を請け負う仕事が減るのは確実だからだ。

政府のシステムは標準化されていない。省庁ごと、用途ごとにつくりこまれた特注品だ。自治体向けも同じ。パッケージシステムもあるが、自治体の要望に合わせて、少しずつ仕様を変える。例えば、ある自治体は「氏名」という用語を使うが、別の自治体は「姓名」を使う。業務の中身は同じなのに、だ。

システムを特注にするため、次世代システムも現行システムを構築した企業に依頼することになる。こうして受注企業が固定される現象を「ベンダーロックイン」と呼ぶ。新IT戦略では、その解消が明記された。

 同じ業務なら特注にせず、同じシステムを使うのが国民経済的には効率的。政府・自治体はシステムの標準化に取り組むべきだが、IT企業にとっては「そこで稼がせてもらっているのも事実」(大手幹部)。システムが標準化され、誰もが手掛けられるようになれば既得権を失いかねない。

政府は新IT戦略の実行性を担保するため、誰が、何を、いつまでに、を明確にする「工程表」を別途策定する。新IT戦略がこれまでのように絵に描いたモチに終わるのか。それとも今度こそ本気で実行されるのか。IT業界はかたずをのんで見守っている。

(産業部 鈴木壮太郎)

政府の新IT戦略の骨子
公共データの民間開放2013年度中に各府省庁の公開データが一覧できるサイトの試行版を立ち上げ。14年度から本格運用
ビッグデータの利活用促進個人データの利活用ルールを明確化。年内に制度見直し方針を策定
ITを活用した農業の高度化農業の現場のデータを蓄積・解析して得られたノウハウを多数の経営体で共有。農業を知識産業化
医療情報連携ネットワークの構築医療や介護、生活支援サービスなどの組織が情報共有・連携し、効果的なサービスを提供。18年度までに全国展開
ITを活用した社会インフラの維持管理20年度までに国内の重要インフラ・老朽化インフラの20%をセンサーを使った遠隔監視などで点検・補修
利便性の高い電子行政サービスの提供番号制度(マイナンバー)導入
行政から利用者に使えるサービスを知らせるコンシェルジュサービスの実現
国・地方の行政情報システム改革1500ある政府の情報システムを18年度までに半減
21年度をめどに原則すべての政府情報システムをクラウド化。運用コストを3割減
自治体のシステムのクラウド化を加速
政府CIOによるITガバナンス強化14年度から政府のIT投資の状況を国民がチェック可能に
受注企業が構築するシステムを特殊な仕様にすることで、他社への切り替えを難しくする「ベンダーロックイン」の解消

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