iPhoneユーザーに朗報? 「テザリング」可能に
無線LANで"炎上"のコネクトフリーが意地の新サービス
無料の公衆無線LANサービスが利用者情報を無断で取得していたとして今年4月に総務省から行政指導を受けた通信関連ベンチャーのコネクトフリー(東京・品川)が、また物議を醸しそうな新手のサービスを投入した。今回はiPhoneを経由してパソコンをネット接続できるという、特定ユーザーにとって垂涎(すいぜん)のサービスだ。
手持ちのスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)などを通じて、パソコンなど外部機器からインターネット接続する「テザリング」。これを、iPhoneでも可能にする「t.free(テザーフリー)」というサービスを20日、コネクトフリーが開始した。iPhoneのセキュリティーを回避するいわゆる「脱獄(Jailbreak)」も、専用のアプリをiPhoneにインストールする必要もない。利用料金もフリーだ。
そもそもiPhoneはテザリング機能を備えているが、日本で販売されているiPhoneは同機能が使えないよう、"ガラパゴス(日本独自)"仕様となっている。通信量の増大を懸念する通信事業者の要請などを受け、米アップルがOS(基本ソフト)レベルで対応した。
しかし、t.freeは、その防御線を乗り越えた。ただでさえスマホの普及で通信データ量の増大に悩むソフトバンクとKDDIにとっては、新たな悩みの種となりそうだ。
まずは「Mac」向け、「Windows」向けも検討
テザリングは通信料を低く抑えたいユーザーにとって有り難い機能。海外ではiPhoneでもテザリング機能が使え、国内でも同機能を搭載したアンドロイド端末が普及している。例えばNTTドコモのスマホ向け「Xiパケット定額サービス」では、月額5985円の定額料金内でテザリングも利用できる(月内データ量が7GBを超えた場合は通信速度が落ちる)。
しかし、iPhoneユーザーが外出先などでパソコンのネット接続をしたい場合は、別途「Wi-Fiルーター」などの通信機器を購入したり、公衆無線LANなどのサービスに加入したりする必要があった。だがt.freeを使えば、そうした出費は必要なくなる。
コネクトフリーによると、まずは1カ月を試行期間とし、当初は「Mac OS X 10.6」以上のOSを搭載したMacからのテザリング利用に限るとしているが、「利用者が増えてサービス継続が必要と判断すれば、Windows向けも含めて正式サービスの検討をする」としている。
利用希望者は、コネクトフリーのホームページからソフトをダウンロードしてMacにインストール。iPhone内蔵のウェブブラウザ「サファリ」で簡単な設定をすれば、すぐにテザリングが利用可能となる。利用料はかからない。テザリング中に「広告」が出ることもない。
いったいコネクトフリーはなぜ、こんなサービスを始めたのか。それは、あの"炎上"事件と無縁ではない。
昨年11月、コネクトフリーは「MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店」など約40の店舗と提携し、無料の公衆無線LANサービスを始めた。しかし翌12月、コネクトフリーが接続したユーザーのフェイスブックやツイッターのアカウント、閲覧したURLといった情報を無断で取得していたことが発覚、ネット上で非難が集まった。コネクトフリーは謝罪し、サービスを停止した。
利用者情報の無断取得について今年4月、総務省は「通信の秘密」を侵害したとし、コネクトフリーに行政指導を行っている。コネクトフリーは昨年12月の時点で取得した情報をすべて消去しており、行政指導を受け、再発防止を約束する報告書を提出した。そのうえで、「安心してお使いいただけるサービスを速やかに提供することが、コネクトフリーから利用者の皆様に対する恩返しと考えております」とし、サービス再開を準備している。
その最中に突然、投入したiPhoneのテザリングサービスは、ある種の「アピール」なのだと、関係者は明かす。
技術力をアピールする「デモンストレーション」
「公衆無線LANサービスでは、店舗と客をつなぐ、双方にうれしいサービスを提供できないかと考えた。店舗から月額数千円をもらい、無線LAN環境を設置。つないだ利用者に店舗の広告を出す代わりに、無線LANの利用料は無料。世の中の役に立ちたいという気持ちで作った」
「利用者の情報を取得していたのは、セキュリティーのため。犯罪などがあった場合、フェイスブックやツイッターのアカウントがあればたどることができる。第三者に渡すようなことはしていない。しかし、未熟だった。サービスを急ぐあまり、利用規約などの整備が後手に回った」
コネクトフリーの創業者で開発責任者も務めるクリストファー・テイト最高経営責任者(CEO)は過去の過ちに関し、こう話す。その上で、今回のテザリングサービスについてこう続ける。
「我々がサービスを停止しているあいだも、技術開発は続けているというメッセージを出したかった。ユーザーが喜ぶ画期的な通信サービスを提供することが使命だと思っている。プライバシー問題で多くの企業が撤退や廃業していったけれど、我々はあきらめていない、というメッセージ」
「前回は後手に回ってしまったが、今回は利用規約などの整備や、弁護士などの専門家とのレビューといった業務プロセスをしっかりした。また今回は、一般のユーザーが不安に感じないように、t.freeのサーバーが取得する情報について明記した」
あくまで本業は公衆無線LANサービスであり、サービス再開に向けた準備は着々と進んでいるという。その中で投入したテザリングサービスは、一種のデモンストレーションというわけだ。ただ、デモンストレーションの割には、波紋が広がりそうだ。
もっとも、テザリングの「裏技」は存在した。日本向けiPhoneでも、OSに備わるテザリング機能が削除されているわけではない。日本のユーザーに見えないようにしているだけだ。これを逆手に取り、日本でもテザリング機能をオンにできるアプリが次々と登場した。
しかし、こうしたアプリは「脱獄」と呼ばれる複雑で高度な作業などが必要。加えて、アップルがアプリの審査をうっかり通してしまっても、見つけ次第、規約違反により「App Store」から削除していたため、アプリの寿命は短かった。しかし「アプリ不要」のコネクトフリーのテザリングサービスは、アプリを削除するという対策でブロックすることはできない。
国内通信業界の風雲児か、暴れん坊か
iPhoneは国内で最も売れているスマホだけに、テザリングの利用が進めば通信事業者への影響は大きい。米アップルも簡単には対策を講じることはできず、対応に苦慮しそうだ。
ソフトバンク広報は「コネクトフリーについては初めて知り、詳細が分からないため、今後の対応も未定」としている。
つまずいたが、ただでは転ばないコネクトフリー。国内通信業界の風雲児か、業界に何石も投じる暴れん坊か。またもや議論を呼びそうだ。
(電子報道部 井上理)