水樹奈々、声優活動20周年 夏にミュージカル主演も

声優アーティスト。近年ことさらにその存在がクローズアップされるようになった背景には、水樹奈々の活躍がなくてはならないものだっただろう。
トップ声優としてテレビアニメ、劇場映画など多くの作品に参加。また、伸びやかな高音と豊かな表現力、そしてそれらを余すことなく伝えうる抜群の歌唱力で、アーティストとしても多くのファンを魅了する。アーティストデビュー15周年イヤーの昨年は、自身2度目の東京ドーム2days公演や、「夢だった」と語る阪神甲子園球場での大規模なライブを成功させるなど、その輝きは増す一方だ。
そんな彼女が、「アーティスト活動の1つの区切り」と語った前作から1年。ニューアルバム『NEOGENE CREATION』を完成させ、昨年12月21日にリリース。これまでになく早いペースでの新作発表には、現在の彼女の充実ぶりが表れていた。
「2016年は本当に幸せな1年でした。楽しかった~(笑)。アグレッシブでチャレンジのたくさんある日々でしたね。
まずは、年明けすぐに4回目となる座長公演。それから、15年のクリスマスイブに急きょ発表になった東京ドーム2days。まさかあのステージに2度も立たせていただけるなんて。11年に初めて立たせてもらったときは、会場にものすごい緊張感が、まるでブラックホールのように渦巻いていたんですよね。『水樹奈々? ふーん、やれんの?』と言われているみたいな。威圧感のある会場だと思っていたのですが、今回は会場が私のことを覚えてくれていたかのように『久しぶり、よく来たね』って温かく迎えてくれた気がしたんです。それは私だけじゃなく、スタッフ全員が感じていた。だから、伸び伸びとリラックスして思い切り楽しんでステージに立てたことがうれしかったですね。
この東京ドーム公演では、歌手活動15周年のプレミアムなステージを目指していたと同時に、また新たな座標となるようなものを提示できたらなと思っていました。これまでの歩みを感じてもらえるように、1日目と2日目で7年を区切りに年代別でセットリストを組んだのですが、歩みを振り返ることで、逆に今、これから自分がやりたいことが見えてきた。
ずっと、がむしゃらに猪突猛進で進んできたので、改めてこの15年と向き合えたことが大きかったです。そしてここで、音楽性の変化や、新しい作家さんたちとの出会いによって自分も知らなかった表情が生まれていることに気が付いて。それがニューアルバムの制作につながりました。

タイトルにあるNEOGENEは、地質学の区分の1つで"新第三紀"という意味。東京ドーム1日目が水樹奈々の第1期、2日目が第2期とすると、これからは第3期だなと。さらに、NEOとGENEで"新しい遺伝子"という意味にもなる。"新しい遺伝子(音楽)を想像する"との思いを込めてタイトルにしました。
実は、こんなに早くアルバムをリリースする予定はなかったんです。でも、東京ドームでのライブを終えて、私とプロデューサーの三嶋(章夫)さんのなかで何かが変わった。創作意欲がグワ~って湧いてきてしまって、『これはもうアルバム作りたいよね』って(笑)。その後の甲子園球場ライブも、急きょ決まったもの。当初秋はツアーの予定だったんです。16年は予想のつかない出来事の連続でした」
7月には帝国劇場の舞台に
新作に収録されたのは全15曲。自身も声優として出演した『この美術部には問題がある!』のオープニングテーマ『STARTING NOW!』など、十八番である疾走感のあるロックチューンから、デジタルサウンドを取り入れたポップなナンバー、そしてラブソングまで、意欲的な楽曲が並ぶ。

「アルバムの軸になったのは、甲子園球場で初披露した『STAND UP!』ですね。"夢を諦めない"ことをテーマに掲げているのですが、今回は応援ソングを作りたい気持ちが強くて。結果、無意識でしたがハッピーで明るい楽曲が多くラインナップされています。私自身、大の阪神タイガースファンで、ずっと『いつか甲子園でライブがやりたい』と言い続けていたんです。それが『できる』と決まった直後に届いた1曲。私の気持ちも、そして伝えたいこともこのなかに詰まっています。
『Please Download』や『絶対的幸福論』は、新しい水樹奈々全開で、意外性を感じてもらえるのではないかなと。『Please~』では、初めてメインボーカルを加工。そんなことは考えたこともなくて。今までにないデジタルな仕上がりにびっくりすると思いますよ(笑)。『絶対的幸福論』はストレートなラブソング。広い意味での愛ではなく、ただ1人を思った愛の歌。デモテープを聴いた瞬間に、心を揺さぶられてどうしても歌いたかったんです。
ニューアルバムではチャレンジもたくさんしましたが、『UNLIMITED BEAT』のような音数も多く、熱量の高い、全部乗せな水樹奈々らしい楽曲ももちろん健在。いろいろな出会いと経験から引き出しが増えた感覚なんです。これまでの全ての経験があって今の私がある。得たものすべてを表現していければ。
3月12日までライブツアーで全国8都市(全14公演)を回っています。冬にツアーをするのは7年ぶり。選曲も夏とは違ってくるので、ファイナルに向けてファンのみなさんと一緒に楽しいステージを作っていきたいですね」
今回のインタビューで彼女から感じたのは確かな自信。そのことに触れると、「ずっと自信を持つことが傲慢な気がしていた」と口にした。「でも、自信っておごり高ぶることじゃなくて、自分を信じることなんだと分かって。頑張った自分をちゃんと褒めてあげて、信じてあげて、そうすることで先につなげていけるんだって気づけたんです」と笑顔を見せた。7月には帝国劇場で上演のミュージカル『ビューティフル』で、平原綾香とともにW主演を務めるなど、新たな活躍の場も用意されている。
「今年は声優活動20周年でもあるので、声の可能性や音楽の可能性をもっと追求して広げていきたいです。パワー感のあるボーカルや楽曲が『私らしさ』ではありますが、シンプルに削ぎ落とした私もいろいろな場面で感じてもらえる年にしたいですね」
(ライター 山内涼子)
[日経エンタテインメント! 2017年2月号の記事を再構成]
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