世界のポピュリズム、勢い続く? 庶民の不満根深く

米国や欧州を中心に、ポピュリズム(大衆迎合主義)が広がっているわ。経済格差の拡大や移民・難民の増加が影響しているみたいだけど、まだ勢いは衰えていないようね。世界の混乱は続くのかな。
世界中を揺さぶっているポピュリズムの現状と行方について、西山夏さん(53)と熊沢靖子さん(47)が小竹洋之編集委員に聞いた。
――なぜポピュリズムが広がっているのですか。
千葉大学の水島治郎教授はポピュリズムを「人民の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動」と捉えています。歴史的に繰り返されてきた潮流ですが、2016年を境に再び勢いを増してきました。英国が国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決め、米国の大統領選でトランプ氏が当選した年です。
米欧では経済格差の拡大や移民・難民の増加に悩む庶民が少なくありません。ところが既存の政治家は富裕層や大企業の意向に左右され、グローバル化の痛みにあえぐ人々に寄り添ってきませんでした。長く置き去りにされてきた庶民の不満や怒りがついに爆発し、そこにつけ込む扇動家の躍進を許したのです。
ポピュリズムは米欧だけでなく、フィリピンやメキシコ、ブラジルなども侵食しています。排他的な通商・移民政策や強権的な政権運営に傾く右派のポピュリズムが優勢ですが、バラマキ色の濃い公約を掲げる左派のポピュリズムの伸長も目立ちます。
――世界を主導する米国の変質は特に深刻なようです。
米国では上位1%の高所得層が富の4割を握り、全人口の0.01%にすぎないエリートが大口献金で政治を支配しています。白人の人口比率は今後30年以内に5割を割り込み、ヒスパニック(中南米系)やアジア系の存在感が一段と高まります。そんな国のかたちにいら立つ庶民が既存の政治家に「NO」を突きつけ、異端児のトランプ氏に変革を託したといえます。
米投資会社社長のJ・D・ヴァンス氏は16年の著書「ヒルビリー・エレジー」で、中西部や南部の取り残された白人労働者階級の窮状を描きました。トランプ氏はこうした庶民のための政治を訴え、「米国第一」の看板を掲げて民意をつかんだのです。
たとえ民意の反映であっても、内向きの経済・外交政策が米国のためになるとは思えません。主要国との貿易戦争や中南米・アジアの移民制限は、経済成長の基盤を損ないます。環太平洋経済連携協定(TPP)や温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱で、国際的な地位の低下にも拍車がかかるでしょう。国内がトランプ派と反トランプ派に割れ、社会の分断が深まっているのも心配です。
――トランプ氏は再選されるのでしょうか。
各種世論調査の平均支持率は40%台前半で、17年1月の政権発足時とほぼ同じ水準です。共和党の支持者に限れば80~90%を維持しており、20年の大統領選で再選を果たす可能性は十分にあります。
民主党の大統領候補争いでは、中道派のジョー・バイデン前副大統領が優勢です。ただ存在感を増しているのは左派の候補者で、庶民受けする国民皆保険の導入や公立大学の無償化を訴えています。巨額の国費が必要なのに、責任ある財源を示してはいません。次の大統領選は、右派と左派のポピュリズムの戦いになるかもしれません。
――世界のポピュリズムを抑え込めますか。
5月の欧州議会選では、EU懐疑派の極右勢力などが躍進しました。英国では強硬なEU離脱派のジョンソン新首相が、問題をこじらせる可能性があります。グローバル化や既存の政治、エリート支配への反感を原動力とするポピュリズムの根は深いといわざるを得ません。
ポピュリズムの封じ込めは簡単ではありません。経済成長や技術革新の促進、所得再分配や安全網の強化、教育や職業訓練の充実といった包括的な対応が必要です。政治資金や選挙制度の改革なども組み合わせ、庶民の不満や怒りを和らげるべきでしょう。

ちょっとウンチク
異端への渇望、断てるか
米著名投資家のレイ・ダリオ氏らが2017年に試算したポピュリズム指数。先進国の値は1930年代の水準まで上昇していたという。偏狭なナショナリズムのせいで悲惨な世界大戦に至った歴史を繰り返すのか。マクロン仏大統領が右派のポピュリズムの台頭を憂い、「古い悪魔がよみがえりつつある」と警告するのも無理はない。
トランプ米大統領のような扇動家の罪は重い。だがポピュリズムの病根は、現状の打破を望む民意にある。経済、人種、政治などを巡る庶民の不満や怒りを解きほぐさない限り、トランプ氏的な異端への渇望を断ち切れないのではないか。(編集委員 小竹洋之)
今回のニッキィ
西山 夏さん 会社員。週2回程度、ストレッチやヨガに励む。始めたのは5年ほど前で、健康維持が主な目的だが「通う頻度を増やし、姿勢が良くなりました。体だけでなく、心も軽くなります」
熊沢 靖子さん 不動産会社勤務。6月、10年ぶりにソウルへ旅行した。カフェなど写真映えする光景を撮影して楽しんだ。「政治問題などはあるのでしょうが、出会った韓国の人に助けられました」
[日本経済新聞夕刊 2019年7月29日付]