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紙幣刷新でどんな効果? タンス預金の減少は限定的か

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1万円札をはじめ図柄の変わった新しいお札が2024年度、発行されることになったわね。5年前の公表というのは異例のようだわ。世界的なキャッシュレス化の中、どんな狙いや効果があるのかな。

日々の生活に関わることになる新紙幣を取り巻く状況について、鈴木朋さん(37)と竹林真衣子さん(29)が清水功哉編集委員に聞いた。

――どのような経緯で紙幣刷新が決まったのですか。

財務省の事務方では、2018年春ごろには紙幣刷新の案が浮かんでいたようです。同年秋くらいには麻生太郎財務相へもアイデアを上げたとみられます。学校法人「森友学園」への国有地売却を巡る決裁文書改ざん問題などで批判を受けた同省は、前向きな話題を出す機会をうかがっていたのかもしれません。19年に入り首相官邸との調整も本格化し、1万円札に渋沢栄一をあてるなどの図柄も最終的に決まっていきました。

前回(04年)の紙幣刷新は約2年前の発表でしたが、4月上旬に正式発表した背景には、官邸側の思惑もあったようです。同月に新元号の発表、5月には新天皇の即位があり、さらに祝賀ムードが盛り上がります。経済刺激効果への期待も出ます。今夏に参院選を控える安倍晋三政権にとって、望ましい展開が見通せたのです。

――どんな経済効果が見込めますか。

ひとつは様々な需要の発生です。例えば、新たなお札に対応できるよう銀行ATMや自動販売機を交換したり、改良したりする必要があるでしょう。1万円札だけでなく5千円札が津田梅子に、千円札は北里柴三郎に図柄が変わります。偽造防止のため3次元(3D)ホログラムという新技術も導入します。新たなコストもかかるわけです。

ただし、景気刺激効果は限定的とも指摘されます。第一生命経済研究所の永浜利広氏の試算では、新たな需要は名目国内総生産(GDP)比で0.2%程度とされます。経験則から、特需が出るのは新紙幣への切り替えの直近2年間になるため、各年の経済成長率を0.1ポイントずつ押し上げる程度とのことです。

人々が自宅に保管するお金、いわゆるタンス預金が消費に向かうとの見方もあります。古い紙幣を早めに使おうという心理が働くとの理屈で、脱税目的のお金が捕捉しやすくなるとの指摘もあります。

――タンス預金はそれほど多いのでしょうか。

複数の試算がありますが、みずほ証券の上野泰也氏によると、タンス預金の規模は50兆円に近づいているとのことです。世の中に出回るお札の半分くらいの大きさです。

もともと、不良債権問題の深刻化で銀行経営が不安定になった時期に増えました。預金は不安という心理が強まったのです。日銀による低金利政策が長引き、銀行の預金金利もかなり低い水準です。自宅に保管しておいてもあまり違いはないとの考え方なども、タンス預金増加の背景にあるでしょう。

50兆円が消費に向かえばインパクトもありそうですが、上野氏は大きな効果が出ることに懐疑的です。理由は、旧紙幣も使い続けられる点です。ただ、古い紙幣だと自販機ではじかれると考えて早く使おうとする人や、旧紙幣のままお金を保管すれば税務署に怪しまれると不安を持つ人はいるかもしれません。

――キャッシュレス化との兼ね合いはどうですか。

海外の人々と比べ日本人は現金を好む傾向にあり、GDPに対する現金流通残高の比率は米国の2倍以上あります。ただ日本もクレジットカードや電子マネー、QRコードといったキャッシュレス決済が徐々に増えています。

キャッシュレスは経済を効率化するのも事実です。例えば金融機関がATMの設置を減らせばコストを削減できます。政府もキャッシュレス決済の比率を25年までに今の2倍の40%に高める目標を掲げます。今後日本でも現金離れが進むかもしれません。高額紙幣の刷新は今回が最後になる可能性もありそうです。

ちょっとウンチク

通貨発行益、国民に還元

今のお札の製造コストは1枚当たりせいぜい数十円とされるが、お札はそれより高い購買力を持つ。なぜか。発行者である日銀の資産がお金の価値を裏付けているとの信頼感もあるからだろう。この信頼を維持するため、日銀は発行の見返りにできるだけ信用度の高い資産を手に入れようとするのが普通だ。代表格が国債である。

日銀は買った国債の利息収入など利益を得る。これはお札発行による利益(通貨発行益)で本来国民のものだ。従って日銀は利益から経費を引くなどした額(18年度決算で約5600億円)を国に納める。国はそれを支出し、国民に還元する。

(編集委員 清水功哉)

今回のニッキィ


竹林 真衣子さん 人材紹介会社勤務。やや体力が落ちてきたという自覚から、スポーツジムに週3回程度通い、ホットヨガにいそしむ。「体が引き締まってきた気がする。参加者と話すのも楽しみ」

鈴木 朋さん 医療機器メーカー勤務。最近、小学校時代の担任の退職に伴うクラス会に参加した。「参加者は働き方への考えなどについて共通点も多く、あらためて旧友の大切さに気付いた」

[日本経済新聞夕刊 2019年6月10日付]

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