歌舞伎「伊勢音頭」、満ち満ちた夏の風情 上村以和於
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夏狂言と言えば怪談物と来るのがお定まりだが、幽霊で怖気(おぞけ)をふるうよりこういう芝居は如何(いかが)だろうか。
先ず何よりも夏の風情である。主人公の福岡貢(みつぎ)の着ている白絣(しろがすり)の上布に黒縮緬(ちりめん)の羽織という夏姿。白の麻のスーツにパナマ帽という紳士を見かけることは、昨今、極めて稀(まれ)になったが、いわばその歌舞伎版だ。
ピントコナと呼ばれる、和事の柔らか味の中にひと筋...
長年にわたって歌舞伎の舞台を見続けている演劇評論家の上村以和於氏が、名作・名場面に隠されたエピソードや登場人物の横顔を詳しく紹介します。