ときめく 謎めき(7) 萬鉄五郎「雲のある自画像」
横浜美術館館長 蔵屋美香
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一度、変だなあ、と思うと、何年でも考える。この自画像についても長い間悩んでいるが、解決はつかない。画家がなぜ頭上に雲を描いたのか、わからないのだ。
顔は憔悴(しょうすい)し、目は充血している。背景が黒一色なのは、この空間が男性の心の内側だからだろう。苦悩しているのはわかる。しかし、同時代に類似の例がない。人は独自のものを作っているつもりでも、その時代の表現の約束事からはみ出すのはむずかしいものだ...