ウェッブ望遠鏡の大発見 明るすぎた宇宙の夜明け
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測により、いま天文学研究が急速に進みつつある。2022年夏に本格的な運用を開始してからまだ1年半ほどしかたっていないが、関連論文は既に2000本に達し、多くの研究者が「ウェッブ望遠鏡が登場する前後で世界が変わってしまった」と口をそろえる。なぜここまで盛り上がっているのか。それはウェッブ宇宙望遠鏡があまりにも高性能で、今まで天文学者たちが見たくても手が届かなかった宇宙の姿を、いとも簡単に次々と見せてくれるからだ。

ウェッブ望遠鏡は、138億年の長い宇宙の歴史の中で最初に生まれた星や銀河の探索を、最終目標の一つに掲げている。誕生直後の宇宙には、銀河や星といった天体は存在せず、水素やヘリウムのガスが宇宙空間を漂っているだけであった。誕生直後の真っ暗な状態から、続々と天体が誕生し宇宙に光が灯される時代のことは「宇宙の夜明け」と呼ばれている。こうした天体がいつ誕生し、どのような性質を持っていたのかという基本的なこともわかっておらず、現代天文学の大きな謎となっている。
2022年7月に公開された初期観測データは、まさに天文学者にとって待望のものであった。初期データの解析から、宇宙初期には理論的な予測より多くの銀河が存在したことがわかってきた。これらの理論研究はハッブル宇宙望遠鏡などの観測結果を見事に再現していたため、ウェッブ望遠鏡がとらえた新たな結果と食い違うことに多くの天文学者が驚かされた。しかし、この段階ではウェッブ望遠鏡が見つけた天体は、あくまでも宇宙初期に存在する銀河の"候補"であって、光を波長ごとに分解して調べる分光観測データによって正確な距離を測定して銀河の年代を確定する必要がある。
東京大学の播金優一助教らの研究チームは、ウェッブ望遠鏡の分光観測データを精査し、134億年前の銀河の候補とされていた2天体の正確な距離を134.0億光年、134.2億光年と決定することに成功した。そして、分光観測により正確な距離がわかっている銀河だけを集めても、やはり134億〜135億年前の宇宙には理論的な予測をはるかに超える数の銀河が存在しており、宇宙の夜明けの時代を明るく照らしていたことを確認できた。
理論予測よりも多くの銀河が宇宙初期で見つかっている理由はわかっておらず、初期観測データをもとにした結果が報告された直後から活発な議論が続いている。ウェッブ望遠鏡の素晴らしい性能によって、遠方の宇宙でこれまで予想されていなかった天体や現象が次々と発見されており、人類は初代銀河の形成にあと少しで手が届きそうなところまで迫っている。今後の観測が進むにつれて、初代銀河や初代星の発見だけでなく、予想外の大発見があるかもしれない。今後の成果から目が離せない。
詳細は3月25日発売の日経サイエンス2024年5月号に掲載
- 著者 : 日経サイエンス編集部
- 発行 : 日経サイエンス
- 価格 : 1,686円(税込み)

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