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森川葵さん「目標は手の届きそうなところに設定する」

俳優

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――今年3月まで出演していたバラエティー番組「それって!?実際どうなの課」では、皿回しやアーチェリー、ダーツ、ビリヤードとさまざまな課題に挑戦し、その道の達人たちが長年かけて習得した技を、驚異的な速さで習得する姿が「ワイルドスピード森川」と呼ばれて話題となりました。

一方で、6月に発売された著書『じんせいに諦めがつかない』には、日々の生活の中で悩みや葛藤に向き合う姿がありのままにつづられています。テレビの優等生イメージとはだいぶかけ離れていて驚いたのですが、どちらが本当の森川さんなのでしょうか。

どちらも本当の私です。ですが、「緊張しない」「はつらつとしている」「人ときちんとコミュニケーションできる」といった部分は、最近ようやく習得した「技」ですね。

――技ですか!

私は人としゃべることも苦手でしたし、自分に自信もないし、人生がうまくいくとはまったく思っていませんでした。でも、ある時から、こういうネガティブな気持ちを抱えていて毎日過ごしていたら、生きていても楽しくないということに気づいたんです。20代後半になってからですかね。毎日楽しく過ごせるようになったのは。

ですから、自分の根っこの部分は、何も変わっていません。みなさんから見えている今の森川葵は、生きる中で身に付けてきた術なのだと思います。

「もうやるしかない」と思えば意外といける

――前向きになろうとした転機はあったのでしょうか。

やはり「それって!?実際どうなの課」へのレギュラー出演がきっかけです。もともと人前に出ることに対する苦手意識が強かったのですが、続けることで、「こういうのも悪くないな、楽しいな」と感じられるようになりました。

番組に出演している方々と定期的に会ったり、番組の中で笑い合ったり、気の利いたコメントを言ったり。最初はつらかったけど、ネガティブに捉えていても何も生まれないし、状況が変わるわけでもない。ならば、「何とかなる」「もうやるしかない」。そう思うようにしたら、意外といけちゃうことに気づきました。

――「何とかなる」と思えるところは、もはや才能なのでは。

番組に出ることで改めて知った自分の一面ですね。確かに振り返ってみると、昔から頭の切り替えは早かった方かもしれません。

愛知県の高校に通っていた頃、東京での仕事のために学校に行けず、出席日数が足りない問題にぶち当たりました。そんな時も、代わりにテストではしっかり点数を取って、学校に行けずともきちんと勉強していることをアピールするようにしました。「これが駄目ならあれをやればいい」と、常に代替案や別の考え方をするように、自分で気持ちを切り替えられるようにしていましたね。

私、実は何事も効率よく、最低限の労力で済ませたい人間なんです。プレッシャーを感じることがそもそも嫌い。プレッシャーだと思った瞬間に「大変なこと」になるので、「何とかなる」と考えて、乗り越えるようにしているのかもしれません。

――「じんせいに諦めがつかない」という本のタイトルに込めた思いを教えてください。

自分は本当は頑張らずに緩く楽しく生きたいけれど、結局すごく頑張って働くし、あれこれ欲望があるから、結局なんだかんだ言って諦め切れていない。これはいろいろな人に当てはまることではないかと考えて付けました。

ああでもない、こうでもないと悩んで考え続けて、ぐるぐる回っているだけかもしれないけど、そんな諦めることができない日々の中で、自分の中の変化や新しい可能性を見いだしていく。「これくらいで楽しんでいるのが一番幸せなのだ」と今の状況を把握し受け入れていく。そういう感覚に共感してもらえればいいかなと。

インプットを意識したら、人と会うことも好きになった

――本は小説誌『小説現代』の連載がベースになっています。ドラマやバラエティー出演と多忙なスケジュールの中、エッセーを毎月書くのは大変だったのでは。

もともと文章を書くのは好きでした。昔からブログをよく更新していましたし。だから連載が決まった時はうれしかったです。ですが、雑誌に載せるとなると、自分の言葉が自分のことを知らない人の目にも届くかもしれない。それはうれしい半面、変に伝わらないといいなという不安な気持ちもありました。

私は話すのが下手なんです。友達と話していても、主語がなくて何の話をしていたか分からないと言われることもあって。でも、気持ちを文章にすると伝えられる。書くことは、ちゃんと自分の気持ちを伝える手段ですし、書くことによって、自分の気持ちに気づくこともできました。

自分が好きなようにブログを書いていた時は、ただ思ったことを書いていたし、人に伝わらなくてもいいやと思って書いていたんです。ですが『じんせいに諦めがつかない』は人に伝えたい、人に知ってもらいたい、本当に心の中で思っていることを書きました。

その一方で、毎号の執筆となると「自分は本当は何が言いたいんだろう、何が書きたいんだろう」と思う場面も増えました。思いつかない時、テーマを絞り出すのが大変でした。

――自ら掲げた課題をどう乗り越えていったのでしょうか。

あまり頑張りすぎるのもよくないので、無理な時は書かないようにしていました。試行錯誤の中で気づいたのは「インプットするとよい」ということ。人と話したり、何かを見たりすると、自分の引き出しが増えますし、その中にエッセーの題材が落ちていたりします。これだ!とあふれ出す瞬間が何度かありました。全然関係ない2つのことが頭の中でつながり、腹落ちする経験もしました。

インプットを意識するようにしたら、人と会うことも好きになっていきました。話すことで、今まで気づかなかったことに気づかせてもらいましたし、自分一人で悩むと考え込んでしまうけれど、誰かと話すと大した悩みじゃなかったなと思えたり。昔は一人でいる方が好きでしたが、今は人の話を聞くのも好きになりましたね。

――エッセーには日々の「諦めがつかない」26のエピソードが載せられています。その中でも特に、うまく書けたなと自分でも思うものはありますか。

そうですね……。「コバエをも受け入れる寛大な心」というタイトルのエッセーでしょうか。書いた当時の季節感や、オチに向かうまでの伏線など、文章の流れも割とうまく書けているなと後から読み返しても感じます。

回を重ねるごとに自分の文章のリズムやパターンも決まってきました。冒頭は「何の話をしているのだろう」という感じで始まるのですが、最後の3〜5行に、締めの言葉というか、伝えたいことを言って終わる書き方をものにすることができました。

「欲張らない」など3つのルールを大切に

――「Are You Ready?」のように、自分の理想像や将来について触れたものもあります。

本にも書きましたが、私は20代前半まで「お金に余裕のある方と結婚し、養ってもらいつつ、依存しすぎない程度に自分でも稼いでいたい」という願望の強い人間でした。でも今は仕事を通じて自分で生きていく力を身に付けたから、人に頼らずとも生きていける。仕事も楽しい。だから結婚する理由はまだないなと思っています。

でもこの先、何年かしたら「それでもなお、この人と人生を歩みたい」「やっぱり一人でいるのはさみしい」と思う瞬間が訪れるかもしれません。「仕事は楽しいけれど、女性として子どもを産むのも諦めたくない」と、考え方が変わるかもしれません。きっと、行ったり来たりするのでしょうね。

――自分の気持ちに正直で、ありのままの自分を受け入れようとする森川さんの姿勢がにじみ出ているエッセーだなと思いました。

私が大切にしているのは「欲張らない」「自分のスキル以上の事を頑張ろうとしない」「でもやれる事はやってみる」の3つです。無理をしても楽しくないですから。自分のできる範囲でいろんなことをしていたら、いつの間にかその範囲が広がっていた、というのが理想ですし、幸せですね。

――『日経マネー』の読者の中には、「ここまで増やしたい」「もう少し儲けたい」と欲を出してしまった結果、投資で無理をしてしまったり、失敗してしまったりする人も少なくないようです。

大きな目標を決めすぎると、そこに近づけない自分が歯がゆくて、だんだん苦しくなるだけです。「達成できていない」と、自分で自分を追い詰めてしまいます。だから私は、なるべく自分の手が届きそうなところに目標を設定するようにしていますし、そうあるべきです。あまりにもかけ離れた目標は目標ではなくて、夢になってしまうのではないでしょうか。

手が届きそうで届かないものへのチャレンジを繰り返し、1つずつ乗り越えていく。そうやって人間、少しずつ成長していくのかなと思います。気づいたらいつの日か、夢だったものに手が届いているのかもしれません。少なくともそうやって私は生きています。

――昨年は写真集、今年はエッセー集と、誕生日に作品を出されています。今後、新しい分野への挑戦は考えていますか。例えば画家とか、歌手とか……。

歌は下手なので、歌手は絶対にないです。絵を描くことは好きで、今回の本の中にも、少しイラストを描いています。緩い絵ですけど。そのスキルを生かして、ちょっとしたアイコンのデザインとか、できたらいいですね。

(取材・文/武田安恵 撮影/伊藤菜々子)

[日経マネー2024年9月号の記事を再構成]

森川葵(もりかわ・あおい)
1995年6月17日生まれ。愛知県出身。2010年、ファッション雑誌『Seventeen』の専属モデルオーディションでグランプリに選ばれ、モデルデビュー。その後、俳優デビューすると数々のドラマや映画、舞台の話題作に出演。近年の出演作に、映画「ある閉ざされた雪の山荘で」、ドラマCX「大奥」、NTV「街並み照らすヤツら」など。NHK Eテレ「#バズ英語 〜SNSで世界をみよう〜」でMCを務めるなど多方面で活躍中。
『じんせいに諦めがつかない』 森川葵著/講談社/1705円(税込)

多忙の合間を縫って、毎月締め切りのある小説誌『小説現代』に2年間エッセーを連載した森川さん。本書では、文章を書くことについて、俳優としての思い、愛猫のことなど、何事も器用にこなす異才・森川さんの日々の諦めきれなかったエピソードがつづられている。書籍化に際しては、小説現代の連載を加筆修正、新たに書き下ろしが加わり、全26篇のエッセーと自身による手描きのイラストを収録。

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