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[社説]定額減税の押しつけで消費は目覚めるか

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岸田文雄首相肝煎りの定額減税が6月から始まる。物価高対策として昨秋、唐突に打ち出された施策だ。減税にこだわるあまり複雑な仕組みとなり、事務作業を担う企業や自治体から悲鳴の声が上がる。肝心の消費下支え効果にも疑問符がつくといわざるをえない。

定額減税は1人あたり4万円だ。所得税から3万円、住民税から1万円差し引かれる。扶養家族分も加え、配偶者と子ども2人の4人家族なら計16万円手取り額が増える。所得制限があり年収2000万円超の人は対象外だ。

給与や賞与、年金などから源泉徴収(天引き)される税金が減る。実感するのは年金受給者の場合で支給日の6月14日、給与所得者なら25日の場合が多いだろう。

だが、このタイミングで満額減税されるのは比較的所得が高い層に限られる。元の納税額が少ないと減税額に達するのに何カ月もかかるからだ。月々で数千円程度の場合も多く、物価高に苦しむ家計が助かるとの心理は薄まろう。

所得が少なく減税で足りない人には別途、給付金で対応する。減税と給付金両方の支給対象は3200万人に膨れる見通しだ。給付金は1万円単位。減税しきれない額が仮に1円でも1万円に切り上げるという。あまりにどんぶり勘定だといわざるをえない。

複雑な仕組みに苦しむのは現場だ。国に代わり源泉徴収実務を担う企業は対象特定の作業に追われる。16歳未満の子どもや配偶者に関し、通常の税優遇と対象を変えたため別の確認が必要になった。

自治体も疲弊している。所得税とは減税手法が異なる住民税額を計算し、必要な給付金額を推計かつ支給する膨大な実務になる。

政府は「恩恵を実感してもらう」とし、減税額を給与明細等に明記するよう求めている。それなら家計に生じる負担増の方もつまびらかにすべきだ。少子化対策として公的医療保険に上乗せして徴収される方向の「子ども・子育て支援金」がその最たるものだ。

1〜3月期の個人消費は4四半期連続マイナスだ。煩雑さばかりで実感の乏しい減税策で消費をどこまで刺激できるのか。一部で減税継続をうかがう声もあるが、検証もせずに掲げるのは不適切だ。

消費の弱さの根底には財政や社会保障の持続性に対する不安があろう。人気取りの思惑が透ける減税策ではなく、中長期的な戦略をもって政府は取り組むべきだ。

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