[社説]企業と市場の改革を忘れるな
衆議院選挙2024

衆院選は中盤を迎えたが、経済に関する論戦は深まっていない。与野党はこぞって雇用拡大や賃金上昇の重要性を強調するばかりだ。そうであれば、雇用・賃金の源である企業を鍛え、生産性を高める企業と市場の改革を忘れてはならない。
安倍晋三元首相が成長戦略として企業統治(コーポレートガバナンス)改革に着手し、10年が経過した。ガバナンス改革は世界の目を再び日本の企業と市場に向けさせた。日経平均株価は10年で約2.4倍になり、今年2月にはバブル期の高値を更新した。
この流れを途絶えさせてはならない。自民党が「コーポレートガバナンス改革の推進」による企業価値の向上を公約に盛ったのは支持できる。
ガバナンス改革の要は株主と企業との対話だ。活発な対話を促すには、企業情報のいっそうの開示や、対話の窓口となる社外取締役の拡充が欠かせない。「コード」と呼ばれる株主と企業の行動規範集を改訂し、市場参加者の背中を強く押したい。
企業の富は持続的な賃金上昇の原資となるほか、投資を通じて多くの個人に分配される。この好循環が確かなものとなれば、分厚い中間層の形成にもつながる。
一部野党は企業がためこんだ資金への課税を主張する。しかし、市場機能を重視する経済では、企業が主体的に株主や従業員に成長の果実を還元するのが筋だ。
岸田文雄前政権が拡充した新少額投資非課税制度(NISA)は、市場と個人をつなぐパイプとして機能し始めた。もうひとつの資産形成の柱である個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)も、拠出限度額の引き上げなど、いっそうの拡充を急ぎたい。
自民党の「資産運用立国」「投資大国」の政策は、立憲民主党の「金融・資本市場の機能向上」といった主張と重なる部分もある。建設的な議論を通じ、成熟した市場経済の構想を示してほしい。