[社説]ベトナム新書記長に安定望む

ベトナムの最高指導者である共産党書記長をトー・ラム国家主席が兼務することになった。前任のグエン・フー・チョン氏が在職のまま7月に死去し、空席となっていた。トップ不在という異例の事態は2週間ほどで解消された。
書記長の交代は13年ぶりだ。米中対立に伴う地政学的な緊張の高まりなど、同国を取り巻く環境は厳しさを増す。新書記長にはまず政治的な安定を求めたい。
3日の党中央執行委員会でラム氏を選出した。任期は次の党大会が開かれる2026年初めまで。同氏は「従来路線をしっかり続ける」と述べ、チョン氏が力を注いだ「反汚職闘争」や、各国と全方位に友好関係を築く柔軟な「竹外交」を継承する方針を示した。
長く公安相を務めたラム氏は、チョン氏が「禁止区域も例外もない」と推進した汚職撲滅の捜査・摘発に辣腕を振るった。国家主席を2代続けて任期途中で辞任に追い込むなど、21年に発足した党指導部の政治局員18人のうちこれまで7人を更迭した。
上層部が次々と失脚した結果、当初は党内序列が9位にすぎなかったラム氏は今年5月に同2位の国家主席へ昇格し、次期書記長の有力候補と目されていた。
反汚職闘争への国民の支持は高い。ビジネス環境の透明性が増せば、企業にも利点は大きい。ただし政争の道具に使われているとの批判もあり、容赦ない追及に官僚が萎縮して、公共事業などの許認可が滞る弊害も生じている。
ベトナムでは「四柱」と呼ばれる書記長、国家主席、首相、国会議長が集団指導体制を敷き、最高指導部内の役職兼務は通例とはいえない。ラム氏は過度の権力集中を避け、公正で透明性の高い政権運営に配慮する必要がある。
ベトナムはサプライチェーン(供給網)の脱中国依存の有力な受け皿だ。日本は2千社超の企業が現地進出済みで、中国の強引な海洋進出に対抗するため防衛協力も拡大している。地域の平和と安定へさらなる連携を図るべきだ。

グローバルサウスとはインドやインドネシア、トルコ、南アフリカといった南半球に多いアジアやアフリカなどの新興国・途上国の総称で、主に北半球の先進国と対比して使われる。世界経済における格差など南北問題の「南」にあたる。実際に領土が南半球に位置しているかにかかわらず、新興国全般を意味する場合が多い。特に近年、民主主義と権威主義の分断のなか中立を貫くスタンスをとる特徴で注目されている。また冷戦期に東西双方の陣営と距離を置いた「第三世界」を表現するときにも使われる。