仏やスペイン、年金改革に着手 財政再建急ぐ
【パリ=竹内康雄】フランス政府は公的年金制度を改革する。9月にも法案を議会に提出し、2014年にも制度改正を目指す。スペインやポルトガルなど南欧諸国も改革に着手。年金制度は国民の生活に直接影響するため政治家から敬遠されていたが、高齢化による国庫負担増や運用悪化などで赤字が拡大。財政再建を進めるには改革は不可避と判断した。
仏政府は今月に入って経済団体と主要労組を交えて年金改革の協議を開始。エロー首相は「議論を重ね、9月半ばには合意を目指したい」と話した。仏政府は現時点で改革案を示していないものの、年金を満額受給できる保険料の納付期間を現行の41.5年から43年に伸ばしたり、保険料を引き上げたりする案を検討しているようだ。
労組は大規模デモ
仏公的年金会計の赤字は12年は国内総生産(GDP)の0.7%に相当する140億ユーロ(約1兆8千億円)。経済情勢が大きく改善しても20年には1%に拡大するとの試算がある。仏政府は増税や歳出削減を進めているが、財政赤字を抜本的に減らすには年金制度改革に着手せざるをえないと判断。だが主要労組は早速反発、9月10日の大規模デモを決めた。経営側も負担が増えるため難色を示している。
11年に受給開始年齢を67歳へと2歳引き上げると決めたスペイン。12年に財政悪化に拍車がかかり、一段の改革を迫られている。今年6月上旬には政府の第三者委員会が支給額に柔軟性を持たせるためインフレ連動を弱めて年ごとに額を決める制度を提案。ラホイ政権はこの案を軸に議会との調整に入る。地元紙によると、同国では失業者の増加で年金制度を支える人口が過去最低になった。
ポルトガルも5月、コエリョ首相が示した改革案に、受給年齢を現行の65歳から14年に66歳に引き上げる案を盛り込んだ。イタリアもモンティ政権時に受給年齢を18年までに66歳に引き上げることを決めた。
年金制度は国民生活に直結するため、政治家が手を付けにくい分野。国民はこうした問題に敏感で、支持率低下やデモを引き起こしかねないからだ。ラホイ首相は12年、増税や労働市場改革などを断行したものの、年金制度改革は先送りした経緯がある。
だが各国の財政状況は厳しい。フランスはGDP比財政赤字を13年に3%以内に抑える約束を15年に延期。スペインも14年から16年に先送りした。現状ではこの目標達成すら危ういとの見方がある。仏会計検査院は6月下旬、13年の財政赤字は政府予測の3.7%を上回り4%弱になるとの報告書を公表。15年に財政赤字を3%に抑えるには、14年に130億ユーロ、15年には150億ユーロの緊縮予算が必要と分析した。
欧州委が改革要求
目標の延期を認めた欧州連合(EU)の欧州委員会は、その見返りに年金の制度改革に着手するよう要求。仏などの年金は市況悪化により運用が振るわないほか、高齢者人口の増加で国庫負担がかさんでいる。現状を放置すれば財政の健全化がますます遠のく。
金融市場から財政再建のスピードが遅いとみられれば欧州危機が再燃しかねないため、各国は改革に取り組む姿勢を対外的にアピールし続ける必要がある。もっとも、改革によって財政が改善しても、国民の反発が高まって政権の求心力が低下する懸念がある。各国首脳は難しい政策運営を迫られている。