「もう一度、国際社会のために」 村上由美子さん
OECD東京センター所長
日米欧の先進34カ国が加盟する国際機関、経済協力開発機構(OECD、本部・パリ)。その本部直轄組織で、アジアでの活動拠点である東京センターの所長に昨年9月に就いた。今年は日本のOECD加盟50周年の関連行事で東奔西走する。

米大学院を出た後の1989年、国連職員として中米バルバドスへ。だが、2年後にニューヨークの本部でみた官僚主義に、暗たんたる気持ちになった。縦割りの組織、実力と無関係の年功制、加盟国の"利権"。「下っ端の身に大きな仕事はできない」。明石康元国連事務次長に請われたカンボジアでの仕事を最後に国連を後にした。
悪いことはすぐ忘れる楽観的な性分だ。「民間の世界も見たい」。米大学院での学び直しを経て、米ゴールドマン・サックスへ。ロンドン、ニューヨーク、東京と勤務地を転々とした。
「もう一度、国際社会のために」。40代の折り返し地点を過ぎ、国連職員OGとしての血が再び騒いだ。これまで日本の外務官僚の定位置だったポストに応募、民間出身者として初めて射止めた。日本人女性職員としては最高位の幹部だ。
中国やインドの台頭で、先進国クラブの存在感はかすむ。それでも「個人情報保護、税制、教育と先進国でしか世界の潮流をつくれない分野がある」。国会議員にOECDの研究成果を伝え、法案づくりを助言する活動を始めた。政策論議の場にどんどん参加すべきだ、と企業訪問も重ねる。

日本人は倫理観の高さといった強みを外国に伝えきれずにいる。女性など多様な人材がもっと活躍できたら。そんな思いがエネルギー源だ。
米投資銀行に勤める米国人の夫との間に10歳、8歳、5歳の2男1女。ゴールドマン時代の上司が軽やかに出産・育児と仕事を両立している姿をみて悟った。「すべてを完璧にしようとしたら燃え尽きてしまう」。家事もできるだけ同居する家政婦に任せる。
安倍晋三首相が出席する5月のパリでの会合の先には、インドネシア、マレーシア、タイといったアジアの潜在的な加盟国候補との絆づくりという大仕事が控える。
(瀬能繁)
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