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任天堂ファミコン30年 中年「マリオ」再び跳べるか

脱・集団指導体制、岩田流でスピード経営

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 「ファミリーコンピュータ」が発売されて15日で30年。ゲームの雄として君臨した任天堂だが、インターネットの普及で事業環境はガラリと変わった。日本を代表する高収益企業は2期連続の営業赤字に陥った。創業家出身の山内溥相談役(85)から岩田聡社長(53)にバトンを渡して11年。ファミコンで築いたビジネスモデルの寿命を指摘する声も上がっているが、任天堂は「マリオ」のように再び跳び上がれるのか。

「カリスマ」山内氏のワンマン経営で躍進

「環境変化に速いスピードで適応しなければいけない」(岩田社長)。6月27日に11年ぶりに代表取締役クラスの役員を大幅刷新した任天堂。山内前社長時代からの「番頭役」で、70歳前後の代表取締役2人を含む高齢の4人が退任した。新しい経営陣10人の平均年齢は約7歳も若返った。

代表権を持つのはそれまでの5人から、岩田社長、「マリオ」の生みの親として知られる宮本茂専務、ゲーム機開発の責任者である竹田玄洋専務の3人のみとなった。権限を集中させ、意思決定を迅速にして経営スピードを上げる。

任天堂は1889年に花札の製造で創業。その後、トランプやかるた、玩具などに手を広げ、多角化を進めて経営危機に陥ることもあった。しかし、1949年に社長に就任した山内氏の時代、ゲームへの参入が同社を国際優良企業に変えた。

 1981年11月。開発第2部の部長だった上村雅之氏(70)に1本の電話が入った。受話器の先は山内社長。「テレビゲームの開発をやれ」。一言告げると電話を切った。後日になっても「性能や仕様に指示はなく、ただ『売値1万円以下でやれ』と、それだけですよ」と上村氏は振り返る。

「カリスマ」と呼ばれた山内氏の、こんなワンマン経営が任天堂躍進の原動力だった。山内氏の一言で開発が始まったファミコンは83年7月に発売。世界で累計6191万台を売る大ヒット商品になり、同社を世界的な企業に発展させた。

「ゲームのデフレ」で業績が悪化

マリオシリーズを筆頭に「ポケットモンスター(ポケモン)」などの人気ソフトによってハードの販売も促す事業モデルを確立、世界のゲーム界を席巻した。ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)や米マイクロソフトなどとの競争も勝ち抜いてきた。

そんな同社が、取締役の半分が代表権を持つという異例の体制になったのは2002年。52年間社長を務めた山内前社長が退任し、42歳だった岩田氏が社長に就任したときだ。社長就任の2年前に外部からスカウトし、社内基盤のなかった岩田氏を支えるため、代表取締役を4人から6人に増やし集団指導体制にしたのは山内氏の考えだ。

競合他社から「任天堂も鈍くなるね」と陰口をたたかれたが、04年発売の携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」、06年発売の家庭用ゲーム機「Wii」を世界で大ヒットさせた。金融危機で多くの企業が苦しむ中、09年3月期に過去最高益を記録した。

しかし、ネットの魔手が任天堂を直撃する。ネット上で無料や数百円で遊べるゲームが広がり、「ゲームのデフレ」が進行。「数千円を出してまでソフトを買いたいと思ってもらえるハードルは年々上がっている」と岩田社長は分析する。

任天堂の業績は10年3月期から急速に悪化。11~12年度は2期連続の営業赤字になった。岩田社長は集団指導体制からの脱却を決意。9年ぶりとなる営業組織の再編を16日付で実施する。社長室を経営企画室に改組し、テレビCMの担当部署を社長直轄にする。従来以上に社長の考えが現場に届きやすくする。米子会社の最高経営責任者(CEO)も岩田社長自ら兼務し、最大市場である米国での販売をテコ入れする。

14年3月期は営業利益1000億円を「コミットメント」として掲げる岩田社長。だが市場からは「達成は難しい」(国内証券アナリスト)との声もある。「ソフトに特化すればいい」(外資系証券アナリスト)との指摘さえ出る。

今も任天堂のキャラの主役はマリオ。中年となった不動のセンターは得意の跳躍力で同社を再生できるか。「30年たったから家庭用ゲーム機のビジネスモデルの寿命が来て、我々は苦しんでいるという見方を私はしていない」と岩田社長。それを証明するには数字で結果を示すしかない。

(早川麗)

[日経産業新聞2013年7月11日付]

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