太らない脳に変える 30秒食事見るだけダイエット
ダイエットがうまくいかないのは、自制心や我慢が足りないわけではなく、脳の仕業だった。「30秒、食事見るだけ」を実践すれば、「食べたい!」の衝動の波をうまく乗りこなせるようになる。
食事が終わったばかりなのにわき上がってくる「食べたい」衝動。欲望に身を任せてつい食べ過ぎてしまい、「どうして我慢できないの?」と自分を責めていないだろうか。「ダイエットで悩む人は、誰もが『我慢できない』自分を責めている。しかし、そもそも脳は食べたい衝動に抗えないようにできている」と説明するのは、米国ロサンゼルスでマインドフルネス認知療法に取り組む久賀谷亮さんだ。
つい食べてしまう、食べ過ぎてしまう、という人は、脳が「やせられない脳」になっている。例えば甘いものを食べると糖質が脳の「腹側被蓋野(ふくそくひがいや)」を刺激。この部分とつながる「側坐核(そくざかく)」から快楽物質ドーパミンが出る。甘いもの=快楽という経験は学習され、ストレスを感じたときには快楽を欲して甘いものが食べたくなり、さらに脳は強い快楽を求めて欲求が拡大する。
つい甘いものに手を出したり、ストレス食いをしたりしてしまうのは、食べたい衝動と脳の快楽中枢の活性化がセットで起こる脳の「クセ」ができているため。「砂糖はドラッグよりも快楽中枢を刺激するという研究もある」(久賀谷さん)。つまり、ストレスフルな私たちが「つい食べてしまう」習慣から抜け出せないのは、脳の仕業なのだ。
「だからこそ、脳のメカニズムを逆手にとり、脳をうまく手なずけることが『やせられない脳』を『太らない脳』に変えていく手段になる」と久賀谷さん。
数あるメソッドのなかで久賀谷さんがイチオシというのが、いきなり目の前のものに手を出すのでなく「30秒間食事を見るだけ」という方法。早速、そのやり方を見ていこう。
自動操縦のように漫然と食べる、スマホを見ながら食べる。そんな食べ方が食欲の暴走を加速させる。「ダイエットは食前の30秒から始まる。『いま、ここ』にある食べ物に目を向けることによって、食感や味の変化、満足感を味わえるようになるのが『30秒!食事見るだけ』という方法」と久賀谷さん。30秒間の余白を作り、食べるものと向き合う。そして「食べたい度」を数値化する。
ただこれだけのことなのに、いつもより何倍も食べ物の食感を感じ取ることができ、満足感が高まる。「繰り返すうちに、何が足りていないかに気づき、必要十分量を補える脳になる」(久賀谷さん)
脳科学ダイエットの方法は「30秒、食事見るだけ」。さあ、食べようという前に、(1)食べるものの外観やにおいを観察し、この食べ物がどこからやってきたかを30秒間考える。(2)どれくらい食べたいのかを10段階の数字で表す。(3)どうして食べたいのかについても考える。このプロセスによって、「食べたい」衝動が暴走しない脳になる!
まずは一週間、毎食前に行って。「頑張りすぎると息切れするので、4日目にはお休みを入れて」(久賀谷さん)。さらに6日目からは、「朝の呼吸フォーカス」と「夜のボディースキャン」も加えると、「空腹感や満足感を適切に感じとるセンサーが高まっていく」(久賀谷さん)。
【朝の呼吸フォーカス】
呼吸にしっかり注意を向け、自分の内面を見つめる力を磨く「呼吸フォーカス」。偽物の空腹感に惑わされにくくなってくる。
(1)椅子に浅く座り、足、手のひらなど体に意識を向ける。(2)鼻呼吸をしながらお腹の動きや呼吸の状態に意識を向ける。(3)雑念が浮かんだら呼吸に意識を戻す。10分ほど続ける。
【夜のボディスキャン】
体の感覚に集中する「ボディスキャン」は就寝前に。これを行うと食事量を適切に調整できるようになる、という研究報告もある。
(1)左足の指1本ずつに注意を向けてゆっくり呼吸。右足も行う。(2)左のかかと、足の甲、足首に注意を向ける。右足も。(3)左脚全体を意識して呼吸をする。右脚も同様に。(4)骨盤、背中、お腹、胸の順番に意識を向けて呼吸する。(5)首、あご、唇、歯、頬、目の順に意識して呼吸する。(6)頭頂から、体全体がきれいになるイメージで息を吸う。吐く息とともに体内がきれいになるイメージで頭頂から吐く。
医学博士。イェール大学医学部精神神経科卒業。臨床医として精神医療の現場で8年従事の後、2010年、ロサンゼルスで「TransHope Medical」開業。マインドフルネス認知療法にも取り組む。
(取材・文 柳本 操、写真 鈴木宏/洞澤佐智子=久賀谷さん撮影、スタイリング 椎野糸子、ヘア&メイク 依田陽子、モデル MIKA、脳のイラスト 三弓素青)
[日経ヘルス 2019年2月号の記事を再構成]
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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