文藝春秋「菅首相と実弟のJR既得権益」
政権発足からひと月半、新宰相の菅義偉は多忙を極めるなか、同じ団体の会合に二度出席している。JR東日本グループの職域団体「東日本ときわ会」の幹部会がそれだ。一度目は十月七日午後七時十分のこと。菅は東京・飯田橋にあるホテルメトロポリタンエドモントの宴会場「悠久」に駆け付け、いつになく明るい張りのある声でスピーチした。
「私は住田社長のご恩を決して忘れられません。今の私があるのは住田社長のおかげと……」
二度目の会合は十月二十六日午後六時四十八分、東京・赤坂の「広東名菜 赤坂離宮」で開かれた会合に馳せ参じ、同じように挨拶した。
言うままでもなく住田社長とは元運輸事務次官で、国鉄最後の総裁の住田正二(二〇一七年死去)のことだ。一九八七年に分割民営化された東日本旅客鉄道(JR東日本)の初代社長に就任した国鉄改革の立役者である。
JR東日本が自民党に働きかけて設立した職域団体であるときわ会は、職員を動員し、選挙の実働部隊となる。衆議院議員の任期満了まで一年を切っているだけに、菅も気を遣っているのだろう。だが、会合の挨拶はそれだけの理由ではない。菅とJRのあいだには、容易に光の届かない深く暗い因縁がある。
(以下略)