そして殺す

2019年9月26日、日本国の文化庁は「あいちトリエンナーレ」に対する補助金を全額不交付と発表した。同日、あいちトリエンナーレ参加作家のうち38名による「ReFreedom_Aichi」(リフリーダム・アイチ)は補助金不交付の撤回を求める署名活動を始めた。「文化庁は文化を殺すな」と掲げてReFreedom_Aichiが不交付の撤回を求めている補助金は、「日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業」の文化資源活用推進事業として採択された7829万円である。「日本博」は、2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会を機として見据えた「「日本の美」総合プロジェクト懇談会」(主催:安倍晋三/座長:津川雅彦)の延長にある国粋を喧伝する催事群である。「文化庁は文化を殺すな」、そして、「日本博は文化を殺す」。

1967年の「殺すな」、岡本太郎:筆(ワシントンポスト紙 反戦広告 1967.04.03)。ベトナムに平和を!市民連合(ベ平連)。

1970年の「殺すな」、糸井貫二(ダダカン)。仙台路上儀(羽永光利:撮影)。2019年の「文化を殺すな」、糸井貫二(ダダカン):筆。
1926年の「殺すなら殺せ」、無茶(むちゃ)先生。三鳥山人(みどりさんじん)こと夢野久作の小説「豚吉とヒョロ子」。
《豚吉とヒョロ子は無茶病院に這入って、院長の無茶先生に会いますと、先生は髭もあたまも野蕃人のように長くのばして、素っ裸体(すっぱだか)で体操をしていましたが、二人の姿を見るとニコニコして裸体のまま出て来て、「ヤア、よく来たよく来た…(略) 「ヤア。おれたちまでも魔法にかかった。大変だ大変だ。魔法使いを殺してしまえ」と寄ってたかって、無茶先生へ掴みかかって来ました。その時無茶先生は立ち上って、大勢を睨み付けながら怒り付けました。「馬鹿野郎共。何が魔法だ。おれが色の黒くなる煙草を吸っているのを、貴様たちがボンヤリ立って見ているからだ。貴様たちの方がわるいのだ。それともおれを殺すなら殺せ。貴様たちは一生真黒いまま死んでしまうのだぞ。おれは白くなるお薬を知っているんだ。サア、殺すなら殺せ」 これを聞くと、みんな一時に静まりました。》 (三鳥山人 「豚吉とヒョロ子」/『九州日報』 1926.016-03.14)

1963年の「殺す前に相手をよく見る」(復讐の形態学)、赤瀬川原平。

2013年の「そして殺す」、ジェレミー・レナー:談(映画『ヘンゼル&グレーテル』 Hansel and Gretel: Witch Hunters 2013 インタビュー特典映像字幕)。2019年の「殺す」、津田大介:談《あいちトリエンナーレが決まった時に、津田がやるんだったら絶対つまんなくなるだろうってツイートした人を全部もちろんリスト化していて、‘殺す’ってリストに入れている》(対談「津田大介と東浩紀によるあいちトリエンナーレ2019が始まってもないのに話題沸騰してるけどその裏側を語る…」 ニコニコ生放送 2019.04.08)。
「殺す・な」は、‘殺す’と言ってから‘な’と禁止する。‘殺す’という前提を失うと禁止する事象が霧散する。「殺すな・ら殺せ」は、‘殺すな’と言ってから‘ら殺せ’と仮定を承けて命ずる。‘殺すな’という前提を失うと命ずる事象が霧消する。
「文化庁は文化を殺すな」。殺すな。殺すな。殺すなら殺せ。殺す前に相手をよく見る。そして殺す。殺す。「日本博は文化を殺す」。
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