渡司共産党推薦候補の撤退、ハシズム包囲網の新戦術(1)、橋下主義(ハシズム=ファッシズム)は終焉のときを迎えた(その4)

 今回の大阪ダブル選挙では次から次へと新しい事態が生まれるので、橋下氏の政策分析をじっくり書くことができない。でも11月5日の共産党推薦候補・渡司氏の立候補撤退会見は、「ハシズム包囲網」の新戦術を示すものとしてきわめて注目される。これで橋下氏の選挙活動はますます厳しいものになったといえるだろう。

 橋下氏の当初の選挙戦術は、一言でいえば大阪ダブル選挙を“騒然とした乱戦模様”に持ち込むことだった。これはファッシズムの常套手段とも言えるもので、騒然とした空気を醸し出すことで有権者から冷静な判断を奪い、「わけのわからない」うちに選挙をやってしまおうという戦術だ。気がついてみると選挙が終わっており、仕掛けた当人が「してやったり」とほくそ笑むやり方だ。いわゆる「劇場政治」のことである。

 しかし、“騒然”ということにはふたつの異なった側面がある。ひとつは、芸能人や人気者に群がるフアンや追っかけが「ワーワー、キャーキャー」と騒ぐ類の単純なものだ。小泉郵政選挙でオバサンたちが「純チャーン!」と絶叫した光景を思い出せばよくわかる。

 もうひとつは、候補者が乱立して「誰が誰かわからない」ような“乱戦状態”にしてしまうことだ。橋下氏が当初目論んだ戦法は、人気タレントとコンビを組んで「ダブル選挙」に持ち込むというもので、明らかに前者の“騒然状態”を狙ったものだった。つまり「人気コンビ」と「ダブル選挙」の2つがハシズムのキーワ―ドだったというわけだ。

 だが、この戦法はお目当ての人気タレントに悉く逃げられて挫折した。挙句の果てに立候補させられた元府議は知名度も人気もなく、橋下氏が付きっきりで応援演説をしなければならないような代物にすぎない。「人気コンビ」で「ダブル選挙」をやり、相乗効果を盛り上げるという当初の作戦が根底から崩れたのである。だから2人の街頭演説を聞いていると、元府議が「橋下ロボット」にすぎないことが否が応でも見えてくる。これでは「相乗効果」というよりも「逆効果」でしかない。

 後者の“騒然状態”は、多数の立候補者による乱戦模様をつくりだすことだった。だが大阪市長選では、元川西市長が「埋没する」という訳のわからない理由で立候補を取りやめた。また大阪府知事選では常連の「羽柴秀吉」氏までが選挙前に姿を消した。橋下陣営では乱戦模様にするためもっと沢山のガラクタ候補を立てるつもりだったと聞くが、どうしたことかそれができなかった。そして遂に3人まで市長候補が絞られたところで、渡司氏が突如撤退したのである。橋下陣営が意図した乱戦模様は実現せず、意図しない「対決選挙」に追い込まれることになった。

 対決選挙になれば、政策上の対決点が明確になる。いや選挙戦術上も対決姿勢にならざるを得ないから、両陣営の思惑を超えて政策の違いが有権者にわかりやすくなる。もともと民主・自民・公明など与党会派には政策上の違いがなくわかりにくいのだが、橋下氏の私党・大阪維新の会ができてからは対決軸が目に見えるようになった。すくなくとも議会民主主義を守るか守らないかという点では、橋下氏と平松氏の対決軸は明確になったのである。

 渡司氏の撤退は異例中の異例だと言われるが、私はむしろ高等戦術の展開だと見る。渡司氏が自主的に応援するとした平松大阪市政は、もともと共産党にとっては批判の的であり、「政敵」に他ならなかった。それはそうだろう。市当局と市議会それに市職員組合(部落解放同盟)が三位一体の「市役所一家」をかたちづくり、市民のニーズなどそっちのけして自分たちの既得権の上に胡坐をかいてきた大阪市政など、とうてい支持できるような相手ではないからだ。

 それに橋下府政との接点ともなり対立点ともなったWTC(ワールドトレードセンター)ひとつを取って見ても、もともと膨大な埋め立て地を造成して無駄な超高層ビルを次々と建設してきたのは大阪市政だった。バブル景気に踊らされて湾岸開発に走り、バブル崩壊で大阪湾開発計画が破産した原因を作ったのも大阪市政だった。空き地となった埋立地を何とか処分するため、あわよくばオリンピックを誘致して急場の埋め合わせにしようとして大失敗したのも大阪市政だった。また、市職員組合(部落解放同盟)との癒着で職場規律が保てず、不祥事件を起こした市職員の処分が毎月続いてきたのも大阪市政だった。

 こんな大阪市政だから支持できるわけがない、倒す以外の方法は考えられない、というのが今までの共産党の立場だったように思う。だから橋下・平松両氏に対して渡司氏を擁立し、市長選に挑んだのであろう。それがどうして一転して渡司氏の撤退となったのだろうか。端的にいえば、それは「敵の敵は味方」の論理に他ならない。「敵の敵は味方」などというとなんだか権謀術数的な感じがして嫌な感じがしないでもないが、それが通用するのは、現在の大阪府政・市政の政治局面はそれほど急迫しており、議会制民主主義を守るか守らないかで敵味方が分かれるような危機的状況に直面しているからだ。

 主義主張の相違や政策の違いは当然だが、その土台である議会制民主主義は守るというのが民主政治の基盤だ。しかしハシズムは「独裁」を賛美し、大阪ダブル選挙を通してそれを実現しようとしている。この急場を凌ぐためには、議会制民主主義を守るための「救国戦線」を構築しなければならない。そのためには「橋下の敵」である平松氏は「味方」であり、これを自主的に支援するという共産党の新戦術が生まれたのであろう。
 
渡司氏の撤退がこれから「大阪ダブル選挙」の情勢にどんな影響を与えるのか、今後とも注意深くウォッチングして報告したい。(つづく)