「再度民意を問う」といって立候補しながら、「大阪都構想」を掲げない橋下候補の選挙ポスターは市民・有権者を愚弄していないか、橋下維新は正々堂々と有権者の民意を問うべきだ、大阪出直し市長選をめぐって(その9)

 都島区、阿倍野区、此花区を観察地域に選んだもうひとつの理由は、いずれの行政区も2011年統一地方選で維新派議員が当選しており、その活動ぶりを地元選挙区で見たかったからだ。維新派議員は、都島区1人(3人区、維新得票率は次点候補も含めて33%)、阿倍野区2人(4人区、得票率30%)、此花区1人(2人区、得票率50%)というもの。いずれも30歳台から40歳台の若い議員で、此花区を除いて全てが新人議員だ。

 期待はずれだったのは、維新しか選挙活動をしていないにもかかわらず各区ではそれらしき気配が全く感じられなかったことだ。今回の出直し市長選の唯一の争点が「大阪都構想」なのだから、私は「民意」を調達するために維新が大規模な宣伝活動に乗り出すものとてっきり思っていたのである。しかし大阪都構想のポスターは、各区でそれぞれ2時間程度歩いて見たが都島区で僅か2枚を見つけただけで、阿倍野区でも此花区でも遂に1枚も見つからなかった(隅々まで歩けば何枚か見つかったかも知れない)。

 しかも、そのポスターの文面が振るっている。そこには「二重行政の無駄をなくす、豊かな大阪をつくる、大阪都構想」と書かれているだけで、大阪維新の会の名前もなければ連絡先も書かれていない。これでは誰が貼ったのかもわからない“出所不明”のポスターとなり、こんなポスターでは維新が出直し市長選を戦っている意図が市民にまったく伝わらない。

 そういえば、選挙掲示板に一人さびしく貼られている橋下候補のポスターの意図も判然としない。橋下氏の顔写真の横に書かれているのは「全ては次世代のために」という感覚的なコピーだけで、どこを探しても「大阪都構想」の文字が見当たらないのである。またその下には、拡大しなければ見えないほどの小さな字で「大阪維新の会」とある。これでは、選挙に打って出た橋下候補の「大阪都構想に対する民意を再度問う」との肝心の意図が全く市民・有権者に伝わらないのではないか。

 橋下候補が出直し市長選の「大義中の大義」であるはずの大阪都構想を正面に掲げないで、こんな「フワッ」とした選挙ポスターに仕上げたのはなぜか。その意図は作成にかかわった広告会社にでも聞いてみなければわからないが、私の観測では、大阪都構想や大阪維新の会に対するマイナスイメージが日々強くなってきているので、それを正面に出すことを控え、橋下氏の「フワッ」とした個人人気を表に出すことにしたのではないかというものだ。

 よく考えてみれば、「大阪都構想に対する民意を再度問う」と言って6億円もの公金を無駄遣いしながら、いざ選挙になると大阪都構想を正面に掲げず「全ては次世代のために」といった感覚的な選挙ポスターでごまかすーー。こんな市民・有権者を馬鹿にした話はないと思うが、それを平気でやるところにトリックスターでありポピュリストである橋下氏の本領があるのだろう。

 しかし問題は、そんな“虚構に満ちた選挙”の本質を市民がどこまで見抜くかどうかということだ。そんなことで、これぞと思う人に即興の「街頭インタビュー」(合わせて十数人余り)を試みた。でも、それなりに話を聞けたのは3分の2ぐらいで、後は「面倒くさい」とすげなく拒否された。反応は大別して以下のような3グループに分かれる。

 第1グループは、驚くべきことに「選挙があるの?」と聞いた人たちが少なからずいたことだ(3人)。JR西九条駅(此花区)に近い家の前で道を掃除していたお婆さんは、立ち話をするうちについそんな言葉を口にしたのである。聞けば、家では新聞も取っていないし、テレビのニュースもほとんど見ないのだと言う。隣近所でも「そんな話聞いたことないわ」というのだから、どうやらこれは彼女一人の話ではないらしい。

 第2グループは、「私ら関係ない」と全く選挙に関心を示さない人たちがどこにもいたことだ(5人)。このグループからは「この辺は1回も選挙カーが来ないし、橋下市長の顔を見たこともない!」との冷たい反応が一様に返ってきた。その典型は地下鉄谷町線都島駅(都島区)周辺の八百屋さんの主人で、何かしら憤然とした調子で捨て台詞のように言ったのが強く印象に残った。きっと内心では、市民が市政から見捨てられている状況に割り切れない感情(怒り)を抱いているのだろう。

 第3グループは、選挙に行こうか行くまいか、行ったら誰に入れるか、白票にするかどうかを迷っている人たちだ(4人)。JR美章園駅(阿倍野区)近くのマンションの前で車庫に車を入れようとしていた若いカップルからは、「どうしたらいいの?」と逆に意見を求められて正直返事に窮した。インタビュアーがインタビューされるという逆さまの状況になったのだから、市民の戸惑いはよほど深刻なのだろう。公職選挙法違反になるといけないので一般的な意見に止めたが、選挙をまともに考えている有権者には、その声に応える努力が主要政党側に求められていると強く感じた。

 平日の昼間なので、維新支持層が多いビジネスマンや経営者に出会うことはなかった。だからこんな「ミニ調査」をもとに何がしかの傾向を見出せるとは端(はな)から思っていない。でも橋下維新側の選挙戦術の一端がわかっただけでも収穫があったと思う。とりわけ12人分の選挙掲示板に「たった1枚」しか選挙ポスターしか貼られていない荒涼たる光景は鮮烈だった。そして、その選挙ポスターに訳の分からない「全ては次世代のために」と書かれてたことに、もっと深刻な衝撃を受けた。(つづく)