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米メジャーの常識覆す 40歳の代走イチロー

スポーツライター 丹羽政善

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キャンプが始まって、10日ほど過ぎたころだろうか。日焼けしたイチローがTシャツ、ショーツ、ハイカットのシューズという姿でクラブハウスに入ってきた。

それを見ていた米記者らが、つぶやくように言う。

「あれが、40歳かよ!」

もちろん、服装のことではなく、体のことだ。見事にシェイプされた体形は、服の上からでも容易に分かる。

40歳でユニホーム、ごくわずか

そのとき、「米国人選手の40歳といったら……」と言いかけたのを、別の記者が遮った。

「40歳でユニホームを着ている選手なんて、もうほとんどいないよ」

確かに、その通りだ。

昨年、マリアーノ・リベラ、アンディ・ペティットが引退してしまったため、イチローを含めた40歳以上の選手は、マイナー契約を含めても米球団にわずか6人となった。

おそらく開幕時にメジャーにいるのは、イチローのほかに、ジェイソン・ジアンビ(故障がなければ)、ラウル・イバネス、バートロ・コロンの4人だけではないか。1973年生まれのメジャーリーガ一も一時期200人以上いたが、今やイチローとコロンの2人だけである。

米球団所属の40歳以上の選手
選手名所属球団生年月日
ジェイソン・ジアンビインディアンズ1971年1月8日
ヘンリー・ブランコ(※)ダイヤモンドバックス71年8月29日
ホセ・コントレラス(※)レンジャーズ71年12月6日
ラウル・イバネスエンゼルス72年6月2日
バートロ・コロンメッツ73年5月24日
イチローヤンキース73年10月22日

(注)※がついた選手はマイナー契約

選手がユニホームを脱ぐ理由は様々。リベラやペティットのように「やりきった」と言って引退できる選手はわずか。多くはケガ、あるいはそのケガが原因で成績を落とし、キャリアを縮めてしまう。

イチローはといえば、2000年のオフにマリナーズと契約してから、ケガとはほぼ無縁。09年に胃潰瘍と左足ふくらはぎの張りでわずかながら戦列を離れたことがあるが、残り12年はすべて150試合以上に出場している。

イチロー本人にいわせれば、「当たり前のこと」なのだろうが、おそらくこれが、ヤンキースがイチローをトレードせず、チームに残している理由か。

ヤンキースはオフに、ジャコビー・エルズベリーとカルロス・ベルトランというオールスター級の選手を2人獲得した。このとき、「トレードされると思った」というブレッド・ガードナーだが、ヤンキースは彼とも新たに4年契約を交わし、現時点での構想としては左翼ガードナー、中堅エルズベリー、右翼ベルトランとなっている。

イチローにとっては厳しい状況だ。加えて、指名打者・外野手のアルフォンソ・ソリアーノもおり、この選手層をみる限りでは「イチローは必要なのか?」となってしまう。

故障の懸念つきまとう正外野手

が、実のところ、ガードナーとエルズベリーには故障の懸念がつきまとう。

12年、ガードナーの出場は右ひじの故障で16試合にとどまり、昨季は145試合に出場したが、終盤の勝負所で左脇腹を痛めて、離脱した。

エルズベリーも、ここ4年間の出場試合数は18試合、158試合、74試合、134試合とムラがある。試合中の接触プレーなど不運なケガもあったが、彼の場合、「120%回復しない限り、試合には復帰しない」という悪評もあり、故障をすると長引く傾向にある。

ガードナーにしても、そういうところがあるため、この2人がそろって1年間プレーすることは想像しがたいのだ。

米記者らの見方も、その点では共通していた。

「プレースタイルも似ているが、故障がちな点でも似ている」

彼らが故障で欠場した場合、ヤンキースはどうするのかだが、この点でも、米記者の見方は一致していた。

「イチローを当てにしているのだろう」

故障前提で起用法考える首脳陣

故障を前提で起用法を考えるのもおかしな話だが、ヤンキースは昨季、故障者の多さに悩まされ、次々と補強をしたが、成功したのはソリアーノぐらいだった。その経験を踏まえた今季、ベテラン選手の多い彼らが、様々な形でリスク回避を試みるのは、当然のことといえる。

イチローがそうした保険的な扱いを受けることにも違和感を伴うが、それはイチローが12年7月にヤンキースへの移籍を受け入れた時点で、覚悟したことでもあるかもしれない。

故障者がいなければ、イチローは外野手の控えとして、または誰かが休む場合には代わって先発出場する。あとは代走、守備固め、代打という役割だろう。

ただ、そんなイチローの役割を米記者らと話していて、彼らが驚いた。

「40歳のピンチランナー? そんなの聞いたことがあるか。普通は逆だ」

確かに40歳ともなれば、走力は衰え、終盤に出塁すれば、若い選手と交代するのが常である。イチローはその点で、メジャーの常識を覆すこととなる。イチローがそこに価値を感じているとは思えないけれど。

目指すのはあくまでスタメン

そういえば少し前、米スポーツ専門局ESPNの記者が、デレク・ジーターの引退に絡め、しきりにイチローに「引退を考えているか?」と聞いていた。

「考えたことない」というイチローに「あと何年ぐらいできると思うか」と記者は迫ったが、「数年じゃない」などとイチローは答えている。

数年たってなお、イチローが代走で起用されるとしたらそれはメジャーの常識を覆すどころではないが、もちろん、イチローがイメージしているのは、そうした使われ方ではなく、スタメン出場だろう。それならばイチローも価値を感じるかもしれない。

さて、その数年後はどうなっているのか。

イチローは今季終了後、フリーエージェントとなる。

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