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アルペン回転、歴史的難コースは必要だったか

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私は現役時代にワールドカップ(W杯)などを通じて色々なコースを見て、体験してきた。そのなかでも、22日のアルペン男子回転での2本目は最も難しいコース設定だった。歴史的といっても過言ではないほど、難度の高いセッティングだった。

気温が高い割に雪質はそこまで軟らかくはならなかったが、シャーベット状にはなっていた。掘られた雪面に、選手が足をすくわれる場面もあった。だが、レースの行方を左右するとみられていた雪質よりも、あのトリッキーな旗門設定のほうがコースアウト続出の主因だ。

2本目、半数弱がコースアウト

2本目に臨んだ77人のうち、ゴールできたのは43人だけだった。半数弱の34人がコースアウトした。とくに第1シード(上位15人)のパンテュロー(フランス)とノイロイター(ドイツ)、大回転金メダリストのリゲティ(米国)と、実力者が3人連続でコースにのみ込まれたのは信じがたい光景だった。1本目の旗門設定やレース内容を忘れてしまうほどのインパクトがあった。

湯浅直樹(スポーツアルペンク)と佐々木明(ICI石井スポーツ)の日本勢2人を含めた多くの選手がコース前半でいきなりコースアウトした。スタート直後から直線的な旗門が2つ続く「ヘアピン」の後に、2本が横に並ぶ「オープンゲート」を1つ挟んで、またヘアピンが出現する。大半の選手が練習でもやったことがないと思われる設定だった。

オープンゲートと2つ目のヘアピンの距離が短く、振り幅もきつい。1つ目のヘアピンでスピードに乗ってオープンゲートを通過すると、すぐ急激なターンを要する。スピードが出ている状態での急ターンが困難なのは当然で、旗門に入れない選手が続出した。まさに「鬼門」だった。

ゴールまで気を抜ける箇所なし

ここ以外にも大きなターンが必要だったり、スピードに乗ったりした後に急に旗門の間隔が細かくなる設定が連続していた。普通ならスピードをつなぐことだけに集中できる、一息つく地点が必ずあるものだが、今回の2本目に関してはスタートからゴールまで気を抜けるところは全くなかった。

このため、1本目に貯金を稼いだ選手が有利となった。1本目にトップタイムを記録したマット(オーストリア)は30番滑走の2本目、先に滑走した選手たちの失敗を頭に入れながら、リスクの少ない滑りをみせた。2本目のスタート台に立った時点で暫定1位だったヒルシャー(オーストリア)には1本目で1秒28の差をつけていたので、余裕を持って2本目に臨めた。2本目は6位にまとめ、金メダルに輝いた。

通常と違った滑走順の有利不利

一方、1本目が振るわなかった選手は、2本目がかなりリスクの大きいコースと分かっていながらも攻めなくてはならなかった。1本目でノイロイターが7位、パンテュローが8位とやや出遅れたことが2本目で沈んだ理由だろう。

回転競技の滑走順は、1本目30位の選手が2本目の1番滑走となり、1本目1位が30番滑走となる仕組み。31位は31番滑走となり、以降は順位通りに滑っていく。通常なら、滑走順が早いほうが雪面のきれいな好条件で滑れるために有利だ。30位以内にさえ入っておけば、2本目で逆転がある程度可能になる。

今回のレースに限っては滑走順の早いことが必ずしもプラスには働かなかった。難コースだったことを示すように、2本目は1番滑走から3番滑走の佐々木まで3人連続でコースアウトした。先に滑った選手の失敗をモニターでみることができ、滑り終えた選手の情報も入ってくる滑走順が後の選手に有利な部分もあった。

1本目で下位すぎた湯浅、佐々木

そういう意味では1本目20位の湯浅、28位の佐々木ともに、1本目でもう少し上位に位置しておきたかった。ただ、とくに湯浅はよくやったと思う。1月19日のW杯回転第5戦で右足首を骨折。1カ月前に手術したばかりなのに、スタート台に立てたことだけでも奇跡に近い。

レース後に現役続行を示唆した。湯浅は今季、30歳にして初のW杯第1シード入りを果たした遅咲きだ。まだまだ伸びる可能性はある。この悔しさを次の五輪で晴らしてほしい。

4年間、この日のために準備してきたのに、このコースは正直、出場選手たちには気の毒だったと思う。ただ、当コラムの初回で回転競技のトップに君臨する存在として挙げた、昨季まで2年連続W杯総合王者のヒルシャーが1本目9位ながら、2本目に攻め切って逆転の銀メダルに輝いた。銅メダルは、五輪直前のW杯回転第7戦で初優勝し、勢いをソチに持ち込んだ19歳の新鋭、クリストファーシェン(ノルウェー)が獲得した。

滑降やスーパー大回転が伏兵の勝利だったのに対し、回転では本命といわれた面々がきっちりと表彰台に上がった。実力がそのまま反映された。だから、言い訳はできない。

コースの難しさ巡り論争の可能性も

2本目は、男子スーパー複合銀メダリストのコステリッツ(クロアチア)の父親で、難コースを作るので有名な方が手掛けたものだ。彼のセッティングの中でも最高難度だったといえる。レースを面白くするという意図だったのかどうかは分からないが、大回転の金メダリストを含む半数弱が攻略できなかったというのは、さすがにどうなのかと思う。

コンマ1秒を争うのがアルペン競技の面白さだ。それも、ある程度の数の選手がゴールできることが前提になる。今後、アルペン競技の世界で「このようなコース設定でいいのか」と論争が起こる可能性もあると思った。議論は賛否を分けるだろう。

ただ、そういう声が小さければ選手が対応するしかない。今後の五輪では、想定外のコース設定になる可能性までを考えて準備する必要が出てくると思う。

(元全日本アルペンナショナルチーム選手)

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