マクドナルド、関西ではなぜ「マクド」?
関西でマクドナルドを略すとき「マクド」と言う人が多い。大阪に赴任して以来、ずっと気になっていたことだ。育った関東や観光で訪れた名古屋や金沢などでも「マック」の略称しか聞いたことがない。関西で「マクド」派が健在な理由を探った。
まず日本マクドナルドに質問してみた。「会社側で設定した呼称ではなく、『マクド』も『マック』もお客様が自然と使われるようになったようです」(PR部)という答えが返ってきた。
略称にはそれぞれの地域の言葉が関係しているのだろうか。各地の言葉に詳しい奈良大学の真田信治教授に方言とのなじみやすさについて聞いてみた。
「ロイホ(ロイヤルホスト)やファミマ(ファミリーマート)と同じように店舗名が省略されたのでしょう。もともと関西の人は3拍で真ん中の音にアクセントを置く言葉を好みます。省略語にはなじみ深く安心できるこの音節がよく使われます」
関西にマクドナルドの店ができたのは、東京・銀座に国内1号店が開業した翌1972年夏。メニューに「ビッグマック」や「マックシェイク」など「マック」という名称を使った商品名が並んでいても、関西では「マクド」と略して呼ぶ人は多い。
ここでまた疑問が湧いた。そもそも「マクド」は関西だけで使われているのだろうか。「マクド」と「マック」の分布を調査したことがある専修大学の永瀬治郎教授に尋ねてみた。
全国の高校生と大学生を対象に2010年に実施した調査があった。約500人からの有効回答があり、都道府県別では多いところで男女合わせて約20人が回答した。
このうち「マクド」という略称を使う人の割合が60%以上だったのが大阪、京都、兵庫、奈良、和歌山の関西の5府県。中四国のほか、関東や東北、北海道などにも「マクド」派はいた。永瀬教授は「関西から言葉が広がった可能性があります」と分析する。
ただ前回の05年の調査と比べてみると、北陸など近畿周辺で「マクド」派が少なくなっている。関西でも若い世代や東京に勤務した経験のある関西人の間では「マック」派がじわじわ増えているようだ。全国的には「マック」派が主流だ。
関西というコミュニティーのまとまりが希薄になり、関西でも若者を中心に共通語としての「マック」を自然に使う人が増えているのではないかと真田教授はみている。
では中高年層に限ると、関西のマクド派は根強いのか。実際に店に行って確かめてみることにした。関西で営業しているマクドナルドの店舗の中で最も古い「マクドナルド梅田阪神店」(大阪市)に向かった。
堺市に住む40代のビジネスマンは「高校ぐらいからやったかなあ。ずっと『マクド』言うてますけど」という。孫のためにハンバーガーを買いに来たという大阪市内在住の70代の女性も「うちでは孫も私も『マクド』やわ」とほほ笑む。
兵庫県西宮市で育ったという40代の主婦も高校時代からのマクド派。米アップル社のパソコン「マッキントッシュ」が「マック」の愛称で呼ばれていることにも触れ、「『マクドナルド』まで『マック』言うたら紛らわしいし、『マクド』でええんちゃう?」とあっけらかんと話す。
関西ではまだまだマクド派勢力は強い。
(大阪経済部 神宮佳江)
[日本経済新聞大阪夕刊いまドキ関西2012年1月25日付]
関連企業・業界