中国、南シナ海の掘削装置撤収 ベトナム警戒継続
【北京=島田学、ハノイ=伊藤学】中国政府は16日、5月に南シナ海の西沙(パラセル)諸島の周辺海域で設置を強行した石油掘削装置(リグ)による資源探査活動を15日までに終えたと明らかにした。猛反発していたベトナムとの緊張関係はいったん緩和する見通しだが、中国は南シナ海のほぼ全域の主権を主張する強硬姿勢を崩したわけではない。
中国側はすでに掘削装置を撤収し、ベトナムが主張する排他的経済水域(EEZ)の外に移したようだ。掘削作業にあたった中国石油天然気集団(CNPC)は、中国領海内の海南省沖に向けて移動中とした。
中国当局は15日、拘束していた13人のベトナム人漁民も解放した。6月下旬と7月初旬にベトナム近海で操業中だった漁船2隻を拿捕(だほ)し、乗員を拘束していた。
一方で、中国外務省は16日に発表した談話で「西沙諸島は中国の争う余地のない固有の領土だ」と主張。「ベトナム側が中国企業の活動を道理なく妨害したことに断固反対する」とし、周辺海域でのベトナム船による抗議活動を批判した。
中国側は当初、掘削装置による作業は8月半ばまで続くとしていた。ただ8月10日にはミャンマーで、南シナ海問題などを議題とする東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)が開かれる。中国が同問題を巡って批判の集中砲火を避けるため、掘削作業終了をARF開催前に早め、摩擦の緩和を狙ったとの見方が有力だ。
結局、中国はベトナムがEEZと主張する海域で、ベトナムから反発を受けながら掘削作業を最後までやりきった。今後もこうした実績を積み上げ、南シナ海の主権を巡る主張の既成事実化を強めていく考えだ。
これに対し、ベトナム側も警戒感を緩めていない。グエン・タン・ズン首相は16日、「主権を守るため常に断固として闘う。中国には二度と違法な掘削作業をしないよう求める」とけん制した。
5月2日 | 中国がベトナム沖に石油掘削装置(リグ)を搬入し、試掘開始 |
7日 | ベトナム政府「中国船が体当たり」と発表 |
10日 | ASEAN外相会議で南シナ海情勢に「深刻な懸念」 |
13~14日 | ベトナムで大規模な反中暴動。中国人労働者らに死傷者も |
18日 | 中国政府がベトナムとの交流計画一部停止を発表 |
26日 | ベトナム漁船が中国漁船に体当たりされて沈没 |
7月3日 | トンキン湾で中国当局が漁民6人を拘束 |
16日 | 中国の石油掘削装置と艦船が撤収したことが明らかに |
ベトナム公安省戦略研究所のレ・バン・クオン元所長は「中国が逃げたと考えるべきではない。また複数の掘削装置をベトナムの水域に持ち込み、今度は外国企業と石油試掘を始めるかもしれない」と警戒感を解かないよう呼びかけた。
ただ、ベトナム政府にとって、この約2カ月半は我慢の連続だった。圧倒的な軍事力の差を持つ中国を相手にしつつ、自国民には領有権を守る強い姿勢を見せる必要があったからだ。
30回以上にわたる中国との交渉でも打開策を見いだせず、紛争海域への船舶の展開費用もかさんでいた。ズン首相は16日「ベトナムは中国と平和的に交渉し、紛争を解決する用意がある」とも発言しており、中国が想定より早く掘削装置を撤収させたことを安堵する雰囲気すらにじむ。