着るだけで心拍・心電図を計測 NTTが新素材
2~3年内に実用化へ
NTTは12日、着るだけで心拍や心電図を計測できる電極素材を作製したと発表した。電導性が良い高分子をシルクや合成繊維の表面にコーティングし、肌触りがよく強度に優れた素材にした。健常者10人を対象にこの素材を使ったシャツの装着試験と安全性確認試験を実施し、心拍や心電図の長時間計測に成功した。今後、病院や民間企業と連携して2~3年以内に実用化し、医療・スポーツ分野での活用をめざす。
NTTが作製したのは、シルクや合成繊維の表面に「PEDOT-PSS」と呼ばれる電導性高分子を均一にコーティングした生体電極素材。引っ張っても十分な強度や柔軟性があるほか、PEDOT-PSSが水分を吸収する性質をもつため汗などを吸い、肌触りのよい電極の役割を果たす布として使用できる。「ウエアラブル電極」として、体から発せられる電気的な信号を直接読み取る。
従来の医療用電極では、電解質を含むペーストやゲルを使って素肌に粘着させていた。長時間装着していると汗腺を密閉してしまうなどで感染症を起こしたり、不快に感じたりして連続使用が難しかったという。今回作製した素材をシャツなどの一部に使えば、着るだけで心拍や心電図の計測が可能になり、ペーストを肌に付けたときのような不快感も生じにくくなるという。
この素材を使ったシャツについて、健常者10人を対象に数日間の装着試験と安全性確認試験を実施した。その結果、接触性皮膚炎(かぶれ)などがでず、24時間以上の連続使用と安定した心拍・心電図計測が可能なことを確認したという。
今後さらに100人規模で安全性や有効性などの装着試験を予定している。
同日の会見でNTT物性科学基礎研究所(神奈川県厚木市)・分子生体機能研究グループの塚田信吾医師は、今回の素材を活用することで心拍や心電図の常時モニタリングがしやすくなるため、「これまで事前につかめなかった持病の悪化や体調不良などに対応できるようになる」と話した。
NTTは通信技術の基盤技術として培ってきた部品・材料技術の医療・健康分野への応用を急いでいる。今回は物性科学基礎研究所の生体信号を計測する(ナノテクノロジーとバイオテクノロジーを融合した)ナノバイオ分野の研究開発を応用。「まずは医療機器分野への応用を想定しているが、スポーツやヘルスケア向けのサービスでも生かすことができる」(NTTの研究企画部門の山口聡エグゼクティブプロデューサー)としている。持病や長期不良の早期発見や日常生活のストレス把握など健康増進に生かす考えだ。新たに開発した電極素材を使えば、脳波など心電図以外の生体信号にも使うことができるという。
(電子報道部 杉原梓)