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まさかの敗訴…捕鯨協会会長の驚きといらだち

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日経ビジネス
「日本が南極海で実施している現行の調査捕鯨は条約違反」。2014年3月31日、国際司法裁判所(ICJ)はこう判決を下し、差し止めを命じた。日本捕鯨協会の山村和夫会長も「負けることは絶対にない」といった必勝ムードの中、政府を信じて成り行きを見守ってきただけに、「敗訴は想像もしていなかった」と動揺を隠せない。このままでは、北西太平洋での調査捕鯨にも悪影響が出る恐れがある。存続の危機に直面した日本の調査捕鯨。山村会長がいらだつ胸の内を語った。

2014年3月31日、オランダ・ハーグの国際司法裁判所は日本の主張を退け、南極海における現行制度での調査捕鯨の中止を命じる判決を下しました。

この判決には、ただ驚愕(きょうがく)するばかり。はなはだ遺憾に思っています。

1982年に商業捕鯨が一時停止されて以降、日本は87年からは南極海で、94年からは北西太平洋で調査捕鯨を開始しました。商業捕鯨再開を目指して、必要となる科学的情報を収集するためです。その成果は国際捕鯨委員会(IWC)の科学委員会をはじめ世界の多くの研究者から高く評価されています。

ですが、2010年5月31日、オーストラリアは日本の第2期南極海鯨類捕獲調査(JARPA2)が「実態は商業捕鯨であり国際捕鯨取締条約に違反する」として国際司法裁判所に提訴しました。それに対して日本政府はこの調査捕鯨を「合法的な科学調査」であると反論してきました。私たち捕鯨関係者も同じ信念を持ってこれまで調査を続けてきましたから、この裁判は必ず勝つと信じて疑いませんでした。

日本に不利な裁判官構成、危機感なき関係者

判決ではJARPA2はおおむね科学的調査であることは認められたものの、「調査の計画および実施が調査目的を達成するために合理的なものと立証されていない」などと言い渡されました。捕獲するクジラの頭数や調査期間など細かい点で問題があると指摘を受けました。そのため、JARPA2に関する現行の許可証を取り消し、今後は許可の発行を差し控えることが命じられました。

私たちは条約に従ってこれまで調査方法を定めてきたので、全く問題ないと考えていました。今回の判決では調査捕鯨自体は否定されませんでしたが、継続にはかなりのダメージがあります。

一番の敗因は、国際司法裁判所の裁判官の構成にあります。まず、通常は15人のところを、その中に日本人裁判官がいたため、公平性を保つことを理由にオーストラリア出身の裁判官が特任裁判官として加わり16人になりました。16人の出身国を見ると、半数以上の10カ国を反捕鯨国で占めます。

今から考えれば、日本に不利な構成でした。結果は12人の裁判官がオーストラリア側を支持。その中には反捕鯨国ではない中国、ロシア出身の裁判官も含まれています。裁判官は自分の出身国の思惑にかかわらず、よって立つ法律に従って判断をすべきだと思います。しかし実際には、捕鯨に対する立場や外交問題に少なからず左右されていることを思い知らされました。

私は捕鯨業界の代表で、IWCにも人脈があります。振り返ってみれば、日本の主張を知ってもらい国際世論に訴えかける何らかの活動ができたかもしれません。ただ、訴訟自体は国と国との間のこと。外務省と水産庁が主体となり政府が進めるべきことですので、私は関与する立場にありません。経過を見守ることに終始しました。

【南極海捕鯨訴訟の概要】
日本は2005年から第2期南極海鯨類捕獲調査を開始している。これが国際捕鯨取締条約に違反するとして、オーストラリアが2010年5月31日、中止を求めて国際司法裁判所に提訴した。2013年6~7月に口頭弁論が開かれ、2014年3月31日に判決が出た。「条約に基づき実施している合法的な科学調査」とする日本の主張を退け、現行制度での調査捕鯨の中止を命じた。

2010年、オーストラリアが提訴した当初こそ、外務省の担当者に対して捕鯨を巡る問題に関する勉強会を開いたことはありました。しかし、その後はそうした機会はありませんでした。

ただし、捕鯨を推進する議員連盟の会合や政府の報告会で時々、進捗を聞いていました。また、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉で首席交渉官を務める鶴岡公二外務審議官が、政府代理人となり今回の裁判に臨むことになりました。こうしたことから政府もこの訴訟にはかなり力を入れていると思っていましたし、口頭弁論などの経過も順調だと聞いていましたので、完全に政府を信頼していました。

関係者の間にも、「一定の条件は付けられるかもしれないが、負けることは絶対にない」という意見が多数で、全く危機感はありませんでした。

相次ぐ水産会社の撤退、規模縮小なら採算合わず

裁判は一審制で控訴は認められていません。判決には従わざるを得ない。それでも、今回の判決で調査捕鯨そのものが否定されたわけではありません。であるならば、判決を精査して調査捕鯨の手法を変えることによって、何としても調査を継続しなくてはなりません。

ただでさえ、調査捕鯨は存続の危機にあります。鯨肉などの副産物の販売を次の調査費用に充てていますが、近年、捕獲数が減っているため費用の捻出が苦しくなっています。

調査捕鯨船の運航を担う共同船舶にはマルハニチロ、日本水産、極洋が出資していましたが、いずれも撤退しました。鯨肉の販売についても、イトーヨーカ堂や米ウォルマート・ストアーズの傘下に入った西友など、大手スーパーが次々と中止しています。日本企業のグローバル化が進む中、捕鯨や鯨肉の販売に関わることが反捕鯨派の多い海外での事業に支障を来すというのがその主な理由です。

加えて、近年は反捕鯨団体「シーシェパード」の妨害行為で南極海の調査捕鯨での捕獲数は低迷しています。今年捕獲したクロミンククジラは251頭で、目標の935頭を大きく下回りました。捕獲数が減ったため、鯨肉の価格が上昇。それが、消費者離れを生み、過剰在庫を生じさせるという悪循環に陥っています。最近では飲食店への鯨肉の売り込みを強化して、何とか販売を続けている状況です。捕獲数がさらに減ることになれば、そうした努力も水泡に帰してしまいます。

南極海の調査捕鯨は2014年度、中止が決まりました。今回の判決は南極海に関するものですが、北西太平洋での調査捕鯨についても政府は延期を決めました。幸い規模を縮小して継続する方針を打ち出しましたが、今後も悪い影響が出ることを懸念しています。

「調査のために数百頭ものクジラを捕獲する必要があるのか」と批判されることがありますが、これは考え違いです。年齢構成や自然死亡率などクジラの生態について調べるにはそれなりの捕獲数が必要になります。統計学に基づきサンプル数を割り出しています。広い海域での調査でもあり、数頭というレベルではとても足りません。

クジラは重要な食料資源です。商業捕鯨の再開のためにも、調査捕鯨を続けるよう政府に訴えていきます。

(日経ビジネス編集)

[日経ビジネス 2014年5月12日号の記事を基に再構成]

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