仕事って何 「脳がちぎれるほど考えよ」
(孫正義ソフトバンク社長)
米携帯電話大手スプリントの買収など、世界規模で事業展開を推し進めるソフトバンクの孫正義社長。「世界一の企業になる」という目標を掲げ、創業30年余りでグループ企業は1300社を数え、さらに成長し続けている。飽くなき事業欲はどこから来るのか。若い世代に何を望むのか。
5分で発明、毎日挑んだ
――ソフトバンクは猛スピードで事業を広げています。そこまで急ぐ理由は何でしょう。
「企業の価値は挑戦と進化で決まる。受け継いだものを守るだけでは会社は大きく強くなれない。世の中の進化に置いていかれて地盤沈下していくだけだ」
「例えば、創業後30年間生き残る企業がどれくらいあるか。ありとあらゆる会社の0.02%しかないといわれる。今から30年後、新社会人の多くは今の僕よりちょっと若いくらいだが、家庭を持ち、大黒柱として支えているだろう。ただし、創業から30年で99%以上の会社は無くなっている。米アップルですら、倒産するのではといわれた時期もあった。30年後どうなるのか、先を読む選球眼が大事だ」
――挑戦や進化を続けるには、どうすればよいのでしょうか。
「僕が考えた、働く上での極意が幾つかある。1つは『脳がちぎれるほど考えよ』。米国に留学した19歳のころ、1日5分で1つ発明するノルマを自らに課した。1年間で250件ほど特許に出願できるようなアイデアを生み出した。そのうちの1つが音声付きの多言語翻訳機で、試作機まで作り、1億7000万円を稼いだ」
「さっそく今晩にも、ストップウオッチできっちり5分間測って、世界初のモノを考えてみてほしい。新しい水道の蛇口とか、今までにない自動車のワイパーとか何でもいい。脳がちぎれるほど考えて、それがモノにならなかったとしても、そのアイデアは人生のどこかで役に立つはずだ」
「ソフトバンクを創業する時も、どんな事業をすべきか40くらいアイデアを作った。恐らくどれを選んでも、少なくとも日本一、さらには世界一を狙えたと思う。それくらい最初に考え抜いた」
――英ボーダフォン日本法人や米スプリントなど、兆円単位の買収を仕掛けてきました。どんな勝算があったのですか。
「『資金があるから事業をやる』ではなく『何をしたいか』で事業を決めることが大事。ソフトバンクはモバイルインターネットの分野で成長を目指すと決め、情報革命で人々を幸せにするという理念を掲げた。ボーダフォン日本法人の買収は2兆円近くを投じる大ばくちだったが、携帯電話事業への参入はソフトバンクにとって欠かせない選択だった」
「後押ししてくれたのが私の同志である、ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正さん。『本気でモバイルネットに攻め込むなら、ボーダフォン日本法人を買うリスクより、買わないリスクの方が大きい』という柳井さんの一言で決断した」
「やみくもに突き進むのではなく、戦うためには武器も必要だ。ボーダフォン日本法人の買収は、多くの人に『うまくいくはずがない』と言われたが、私は『日本で一番になる』と言い続けてきた。アップルのスマートフォン『iPhone』が世に出る前から、創業者の故スティーブ・ジョブズと日本での独占販売権について約束を交わし、収益源になると見通していたからだ」
――事業を手掛ける上で判断に迷うことは。
「義と利のどちらを選ぶか。東日本大震災の時に考えさせられた。我々の電波があと10メートル、20メートルでも届いていたら、1人でも多くの命を救えたかもしれない。その反省から3兆円ほどのお金をかけて一気に通信網を整備した。お金がかかるとかは問題ではなく、義を取る必要もある」
「志を共にする者を集めることも大事だ。アイデアを考えるくらいなら1人でできるが、革命的なことをなすには仲間を集めなければならない。良いときも悪いときも、本当に志を共有できる仲間こそ頼りになる」
(学生向けに話した内容と書面回答をもとに再構成しました)
【私のこだわり】 時代は追わず、仕掛けて待つ
孫社長が常に心に念じているのが「時代は追ってはならない。読んで仕掛けて待たねばならない」という言葉だという。既にあるモノをちょっと変えて売る、という程度のモノはどのみち続かない。「新しい時代を作るんだ、世界中の人に興奮を与えるんだ」というくらいの情熱が必要と説く。先を読む冷静な目と熱い情熱とが混在しているところが、孫流経営らしさかもしれない。
(川上尚志)
[日経産業新聞2014年4月2日付]
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